SEO 全般

マーケティング効果は過去最低?SEO の絶対 vs 相対評価

ライアン ・ロー
Ahrefs のコンテンツマーケティングディレクター。 過去 13 年間でライター、コンテンツストラテジスト、チームリーダー、マーケティングディレクター、部長、CMO(最高マーケティング責任者)、代理店設立といった様々な役職を経験。その間、Google、Zapier、GoDaddy、Clearbit、Algolia など数十社のコンテンツマーケティングと SEO サポートを担当。小説家の顔も持ち、これまでに 2 種類のコンテンツマーケティング専門講座を自ら開発・設計した。
ここに、相反するようで同時に成立する 2 つの事実があります。1 つ目は、SEO のもたらす収益は以前よりも減少しているということ。もう 1 つは、それにもかかわらず、SEO は依然として最も効果的なマーケティングチャネルの 1 つであるということです。

近年、SEO を取り巻く状況に以下のような現象が起こっています。 

ウェブサイトを運営する人たちの話では、以前と比べて検索から獲得する月間クリック数が 20~40% 減少した企業もあるとのことです。 1 2 3

ガートナー社(IT リサーチ&アドバイザリー企業)など、複数の調査会社がクリック数の減少予想を発表している。

これだけを見ると、SEO には終わりが訪れたかのように思えます。収益が 20 ~ 40% も減少したにもかかわらず、同じマーケティングチャネルにこれまでと同じ労力と資金を投じる価値はあるでしょうか?おそらく、ほとんどの方が首を横に振るのでは?

しかし奇しくも、SEO はそれに値するのです。 

SEO は、その誕生から現在に至るまで一貫して非常に収益性の高いマーケティングチャネルであり続けており、AI ツールを利用した検索需要が日に日に高まる今現在でも、マーケティングにおいては依然として最良の手法だと言えます。

約 14 年前に筆者がコンテンツ制作と SEO 対策サービスを始めた当初、多くの人から「話がうますぎる」と疑いの目を向けられたものでした。今思えば、彼らの言うことにも一理あったのかもしれません。SEO が当時なかなか受け入れてもらえなかった理由は、以下のようなものでした。

  • 前代未聞の「成果が予測可能な」マーケティング手法だったから。
    トラフィックの増加率をかなり正確に予測することで、おおまかな、かつ的確な成長予測を立てることができた。これほど成果が簡単に予想できる手法は、当時も今もマーケティング分野では稀な存在。
  • すぐに成果があらわれる手法ではなかったから。
    コンテンツ制作やリンク構築への投資が、その後時間が経つにつれ大きな成果を生み出すことが分かった。これは一次関数の直線グラフのように投資金額とマーケティング効果が分かりやすく比例する有料広告の手法とは大きく異なるし、SEO とは「後で成果が複利的に増大していく、長期的な投資」のような対策だった。
  • 信じがたいほど、確実に成果があがる手法だったから。
    キーワード調査を活用することで、リアルタイムで特定のユーザーをターゲットにすることができ、商品やサービスの購入につながる可能性の高い訪問者をほぼ確実に、安定して獲得することができた。
  • 導入のハードルがあまりに低かったから。
    SEO は少しずつ段階的に取り入れることが可能な手法で、数件のリンク構築やブログ記事の投稿でも効果があり、多額の初期費用がかからなかった。

一度考えてみてください。これほどのメリットを持ち合わせたマーケティングチャネルが他にあるでしょうか?

SEO は、ビジネスの成長をけん引する原動力として頼りにでき、小額から始められる上に、長期的に見ると効果が倍増していく手法でした。SEO は世界中で一般的なマーケティングチャネルとして認知されるようになり、中小企業から上場済みの大企業までが、BtoB と BtoC の両方でマーケティング対策として採用するようになりました。優れた成果と低コストを実現する SEO を、世界は放っておかなかったのです。

実際、SEO は非常に効果的だったため、クリックから生まれるアフィリエイト収益を増やす目的のみで SEO に取り組む企業も増えていきました。このアフィリエイトマーケティングは一大ブームとなり、現在では「サイトの評判の不正使用」と呼ばれる手口も蔓延しています。SEO は単なるマーケティング成功のための手段ではなく、トラフィックの大量獲得そのものが目標になる、というふうに流行が変化してきたのです。

※ 検索順位をアップさせる目的で、ドメイン評価を上げるために関連性の低いサイトにリンク掲載を依頼するなどの行為。

2023 年、「アフィリエイトマーケティング」の検索ボリュームがピークに。

近年、AI ツールの登場が明らかに SEO に変革をもたらしました。企業は AI ライティングツールを利用して中身のないブログ記事を何千件も制作・公開して検索結果ページを独占するようになり、その一方で Google は検索に対して関連ウェブサイトを表示するだけでなく、AI を使ってユーザーのクエリに直接回答することもできるようになりました。つまり、AISEO コンテンツの供給を大量増加させると同時に、人々のそれに対する(クリックの)需要を減少させているのです。

AIO キーワードと非 AIO キーワードの検索意図の内訳を示す棒グラフ
AI Overview(AIO) 導入後、Google ユーザーによる検索後の関連ウェブサイトのクリック数が減少しており、特に情報型検索の場合で顕著。Ahrefs による調査の結果、Google 検索結果ページで AIO を表示させるキーワードの 99.2% が「情報収集」の検索意図を持つクエリであることが判明した。

これが SEO の新たに抱える課題です。AI ツールを使って事実上コストゼロでコンテンツを制作できるようになった一方で、そうやって公開したページへのクリックを獲得するのは以前に比べてずっと難しくなっています。

この状況を「SEO の終わり」だと嘆く人もいますが、筆者はこの変化を別の視点で捉えています。SEO は誰にでも成果をもたらす「無敵の」マーケティング手法から、他の施策と同程度に「優れた」手法へと移行しつつあるのです。どんなマーケティングチャネルにもそれぞれ長所と短所があり、SEO の場合はこれまでほぼメリットしかない状態だったのが、今はいくつかの欠点も抱えるようになった、ただそれだけのことです。

重要なのは、ほとんどの企業がこの変化によって大きな損失を被ることはないと考えられることです。AI Overview や AI 生成コンテンツが登場した現在でも、SEO のすばらしいメリットは依然として不変です。ただし、以下の点についてはこれまでと見方を変える必要がありそうです。

  • SEO で獲得可能なトラフィックは予測可能なままだが、「優れた」パフォーマンスの基準を以前より下げるべき。
  • SEO への投資がいずれ大きな利益をもたらすことに変わりはないが、それにかかる時間が以前より長くなっている。
  • SEO は依然として確実に成果をもたらす手法だが、従来と比べてオーディエンスにリーチするための競争は激化すると思われる。
  • SEO 導入のハードルは低いままだが、ベストな結果を得るには以前より多くの資金投入と高度なスキルが必要に。

クリック数は減少するかもしれません。しかし、ほとんどの企業にとって、SEO はこれまでと同様、ビジネスの成長を後押しする主要な原動力の 1 つです。高利益を生み出すキーワードの検索結果ページ(SERP)を、競合他社に独占させてしまうのは賢明ではありません。また、AI ツールといった新出の小規模な検索環境においても、Google の SERP と同じように検索上位の獲得を目指すべきです。Google 検索をターゲットにした SEO の主要戦略である、コンテンツ制作、リンク構築、テクニカル SEO といった対策が、AI ツール向けの最適化にもほぼ同じように効果を発揮します。 

SEO がビジネスにもたらす利益は以前より減少するかもしれませんが、ビジネスにもたらす効果は依然として大きく、投資収益率も変わらず高いままでしょう。(実際のところ、収益が以前より増える可能性だってあります。AI ツールから流入するトラフィックのコンバージョン率が従来の検索トラフィックよりも高いかもしれないからです) 

ウェブサイトの 63% が AI トラフィックを受け取っていることを示すドーナツチャート

SEO は競争が激しい、あるいはコストがかさむ等の理由で、自社のニーズに合わないと考える企業も出てくるでしょう。ですが実際のところ、これは他のどのマーケティングチャネルにも共通して言えることです。

また、アフィリエイト収益だけでビジネスを維持することも難しくなるでしょう。アフィリエイトマーケティングで収益をあげるのは、かつてないほど難しくなっています。しかし、これも当然のことでしょう。アフィリエイトマーケティングは裁定取引(安く買って高く売ることで差額を儲ける商法)の一種であり、こういったお金儲けの方法はどれも長くは続かないものです。このやり方で簡単に稼げる時代は終わりを迎えました。

私たちはある意味で SEO に対する過度な理想や期待を捨て去り、SEO は「ドル箱」なのではなく、マーケティングチャネルの 1 つに過ぎないのだという見方にシフトしているのです。SEO が「簡単すぎた」時代はもう終わり、私たちが以前と同じような成果を得るためには、前よりもさらに努力しなければなりません。

筆者はこの変化を特に問題視していませんし、皆さんも特に心配する必要はないと思っています。SEO エージェンシーを運営するアレックス・バーケットさんも LinkedIn のコメントでこんな意見をシェアしています。

「『あまりにも長い間、SEO の攻略は簡単すぎた』という意見には私も同感です。そして、もはやそうでなくなっているのはすばらしいことだと思います。『究極の○○ガイド』といったブログ執筆や、公開したページの被リンクを獲得して虚栄のトラフィックを増やすといった仕事に負われてキャリアのピークが終わってしまっても、私たちは本当にそれでいいのでしょうか?私はそうは思いません」

※ アクセス数は稼げるが、ビジネスには利益がないトラフィックのこと。

Alex Birkett
Alex Bir­kett, 共同設立者, Omni­scient Digital

SEO は以前と比べて難しく、結果が不確実なマーケティング手法になっています。しかし、筆者はこれからも Ahrefs の SEO に携わり続けるつもりです。 

仮に、筆者がスタートアップ企業にコンサルティングをしたり、スケールアップ(ビジネスの成長・拡大)を支援したりする際、あるいは今後自分でビジネスを立ち上げるとした場合、最初に試すマーケティングチャネルは相変わらず SEO だろうと思っています。効果の出るスピードや成果に対して、以前のように過度な期待を持つことはしません。それでも、SEO がビジネス成長の大きな力になり、おそらく存在する中で最高のマーケティング手法の 1 つだという考えに変わりはありません。 

SEO の試練とは、この手法のパフォーマンスが「過去と比べれば最低」であるということのみです。その一方で今現在、SEO よりも優れた、あるいは信頼できる方法が他に存在すると言えるのでしょうか?

もし皆さんもこれについてお考えがある場合は、X にて Ahrefs 公式 をタグ付けの上、ぜひご投稿ください。