分析を手作業でする時間の余裕がない場合や、十分な経験がなく分析に自信がもてないという場合は、大規模言語モデル(LLM)をもとに構築された ChatGPT、Claude、Gemini といった AI ツールの利用がおすすめ。競合他社の PPC 関連データを用意して、ツールに適切なプロンプトを与えるだけなので気軽に実践できます。この記事で、その方法を一緒に見ていきましょう。
まず初めに、今回ご紹介する方法を使って作成したレポートの例をいくつかご紹介します。
1 つ目の例は、分析結果の概要を簡単にまとめたエグゼクティブサマリーです。

下の例では、ChatGPT を使って広告キーワードの重複とキーワードギャップの分析を行いました。分析結果は CSV 形式でダウンロードすることもできます。

筆者のご紹介する PPC 分析方法では Ahrefs と ChatGPT を組み合わせて使うことで、競合他社の Google 広告戦略の全体像を把握し、入手したデータを自社の広告パフォーマンスの改善に役立てることができます。
Ahrefs を使えば、競合他社が入札しているキーワードや、ターゲットとしている国、使用している広告やランディングページを正確に把握できます。これは Google が無料で提供する広告運用ツール「キーワードプランナー」にはない機能です。
また、1 日・1 週間・1 か月ごとの推定広告費も確認でき、そこから競合他社の広告掲載頻度や利用パターンを読み取ることができます。
さらに ChatGPT の力を借りれば、キーワードギャップ(他社が入札しているが、自社が入札していないキーワード)を特定し、データから重要なインサイトを抽出し、すぐに実行できる効果的な改善策を提案してもらうことが可能です。分析実行後、ランディングページや広告文の改善提案など、パフォーマンス向上のための充実した PPC アクションプランを作成してもらうこともできます。
それでは、分析方法を見ていきましょう!
最初のステップでは、競合分析の対象項目を決定し、競合他社の有料トラフィックに関するデータを収集し、彼らの広告費支出における特定のパターンを見つけます。
まず、競合他社のサイトをリストアップします。漏れがないように、サイトエクスプローラーの「オーガニックの競合レポート」でも競合を確認しましょう。Google 検索での競合サイトは、Google 広告でも自社と同じキーワードに入札している可能性が高いからです。

レポートからコピーした競合他社のドメインを自社のドメインとともに「バッチ分析」に入力し、結果をエクスポートします。

競合他社の Google 広告の予算利用について把握するには、概要レポートの「有料検索」タブをクリックして、特に目立つ支出パターンや戦略がないかを確認しましょう。AI よりも人間の目のほうがパターン認識が得意で、AI はグラフなどの画像からデータをうまく読み取れないことも多いため、このステップだけは手動で行うことをおすすめします。
たとえば、ビジネス管理ツールを提供する Monday.com 社の平均オーガニックトラフィック支出に関するこのデータを見ると、2025 年 4 月現在の推定支出額は約 24 万 3 千ドルで、支出がピークだった 2024 年 8 月の約 5 分の 1 にまで減少しています。とはいえ、昨年 1 年間、同社の月間支出額は常に 11 万ドル以上を維持しており、年末にかけて明らかに急増していました。このことから、同社は 2025 年 8 月から 12 月にかけて入札額を大幅に引き上げると予想できます。

観察した内容は随時メモしておき、後で ChatGPT にレポートにまとめて追加してもらうと楽です。
次に、競合他社の入札キーワードや広告コピー、ランディングページを調査していきましょう。
これらのデータを一度に確認するには、サイトエクスプローラーの「有料キーワードレポート」および「広告レポート」にアクセスし、それぞれのレポート全体をエクスポートしてください。

同じ競合他社でも複数の国で競合している場合は、競合のフィールドとなる国を切り替えて複数のレポートを表示し、それぞれをエクスポートしましょう。

すでに検索連動型広告を利用している場合は、このステップを行うことで、競合他社と自社の状況を比較しやすくなります。自社の URL を入力して競合他社に使用した先述の 2 種類の Ahrefs レポートを活用するか、Google 広告からキーワードリストをエクスポートするなどして、他社とパフォーマンスを比較したい広告キーワードのリストを用意しましょう。

このステップは必要なければ飛ばしても OK ですが、非常に短時間で済む作業です。
ここでは、競合他社の PPC ランディングページを AI 分析用に準備します。経験上、PDF などの読み取りやすいファイルを AI に読ませると、ランディングページの背後にある広告戦略を的確に分析してくれます。
まずは、分析したいランディングページを正確に特定する必要があります。多くの企業がホームページや製品紹介といった典型的なページを有料トラフィックの流入先に設定していますが、戦略面で通常最も参考になるのはこういったページではなく、PPC 専用に作成されたランディングページです。
これらを見つけるには、サイトエクスプローラーの「有料ページレポート」を確認し、URL の中に手がかりとなる情報を探します。「lp」「landing」などの用語やランダムな英数字、UTM パラメータなどを含んだ URL は、PPC 専用の特設ページであることが多いです。

これらの URL にアクセスし、ページを PDF として保存してください(Chrome または Firefox のブラウザを利用している場合は、「ファイル」>「印刷」を選択し、保存先として「PDF に保存」を選択してください)。すべてのページを含める必要はありません。鮮明な画像を掲載したページをサンプルとして選びましょう。

競合他社の PPC 分析のように複雑な作業を行う場合、ChatGPT や Claude では「プロジェクト」を作成することで、ユーザーと AI アシスタントの間で共有される便利なワークスペースを利用できます。レポート内容の一貫性を保つため、プロジェクト内では初めから最後まで同じソースファイルを使用しましょう。チャット内で特定のファイルに言及するだけで、そのファイルから情報を抽出させたり、ファイルの内容を更新させることができます。
これが分析の最終ステップです。この後は AI が引き継ぎ、レポートを生成してくれます。必要なのは、プロジェクトを設定し、集めた各種ファイルをアップロードし、このファイル内のプロンプトをチャットウィンドウに貼り付けるだけです。AI ツールはできるだけ最高性能のモデルを利用するようにしてください(筆者の場合は ChatGPT o3 を使用)。


分析終了後、その内容について質問がある場合も、AI ツールにいつでも質問することができます。
この記事の執筆時点で、Gemini ではプロジェクト機能が提供されていません。同ツールを使いたい場合は、チャットウィンドウ内でファイルをアップロードするか、Gem (オリジナルの AI アシスタント作成機能)を使ってみてください。
競合他社の Google 広告戦略の分析は、Ahrefs のようなツールを使えば簡単にできます。しかし筆者の見てきた中では、その他のプラットフォームに掲載されている PPC 広告に関しては、これほど詳細に分析することはまだできないようです。
SNS 広告の場合、Meta、TikTok、X、LinkedIn の公式広告ライブラリが利用可能です(ただし、各ブランドを個別に検索する必要があります)。入手可能なデータはプラットフォームによって異なりますが、広告クリエイティブ、広告のバリエーション、オーディエンスへのリーチ(EU 内に限る)、ターゲティング広告の詳細、広告の掲載日時などを確認できます。

広告ライブラリから入手できるデータの種類は限られるものの、データを AI ツールに読み取らせて広告クリエイティブのパターンを見つけることは可能です。先述のランディングページ分析と同じ要領で、競合他社の広告が掲載されているウェブページを PDF 形式で保存し、AI ツールにアップロードして、以下の作業をするように指示を与えます。
- 広告が宣伝しているものを説明
- すべての広告を、主要なビジュアルテーマ(人物の顔、製品 UI、アイコンのみ、イラストなど)ごとにグループ化
- 各クリエイティブの焦点(顔、ロゴ、テキスト、CTA ボタン)をリストアップし、使用頻度順にランク付け
- すべての見出しとテキストオーバーレイを抽出後、コピーの訴求軸(ベネフィット訴求、時短、FOMO=周りから取り残されることへの恐怖、ソーシャルプルーフ)ごとにクラスター化し、どの種類の利用頻度が多いか分析
- 繰り返し登場するデザインモチーフを特定
他にも AdBeat や AdClarity といったディスプレイ広告分析ツールが存在し、上記の様な分析作業に使うと便利です。例えば、AdBeat では競合他社の PPC 広告利用の全体像を簡単に把握でき、最も頻繁に掲載されている広告の種類や提携パブリッシャー、広告クリエイティブの確認も可能です。

まとめ
AI ツールを使うと、一度実行した分析を異なるデータを対象に再実行することができ、数秒で結果が得られるため、調査や分析作業へのハードルを低くしてくれます。
例えば、競合他社の広告で、「感情的なトリガーを取り入れた見出しと、製品自体にフォーカスしたコピーのどちらのパフォーマンスが優れているのか?」といった疑問も AI に聞いてみましょう。競合他社が季節性に合わせてキーワード戦略をどのように調整しているか探りたい場合も、すでに読み込ませたデータを対象にプロンプトのみを変えて分析してもらえばいいだけです。
皆さんもぜひ、AI ツールにさまざまな分析のプロンプトを自由に投げかけて、スプレッドシートを使った手作業での調査では発見できないような“使える”データを発見してください。
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