
2 日間のカンファレンスにとどまらず、1 週間を通してさまざまなイベントを実施しました。月曜から水曜は 1 日 2 回の有料ワークショップを開催し、木曜と金曜にカンファレンスを行いました。

これ以前にも、Ahrefs はオンラインウェビナー、ネットワーキングイベント、パネルディスカッション、さらには小規模カンファレンスを開催しており、イベントマーケティングに関しては豊富な経験がありました。

とはいえ、今回カンファレンス開催の指揮をとったのはこの記事を書いている筆者ではありません。Ahrefs のすべてのイベント企画・運営を手掛けたのは、イベントマーケターのシャーミン・リムです。
そこで今回、どのようにしてカンファレンス開催が実現したのか、しかもたった 2 人の(!)チームで数日間にわたる大規模イベントを企画するという途方もない任務にどのように取り組んだのかを知りたいと思い、シャーミンに話を聞きました。

この記事は、実際のカンファレンスに向けた準備に焦点を当てたイベントマーケティングガイドです。今回ご紹介する方法は、開催目的に応じてより大規模の、あるいは小規模のイベント企画にも応用できます。
イベントマーケティングとは、ブランドや製品、あるいは提供サービスを宣伝するためのイベントの計画および運営のことを指します。イベントは規模の大小を問わず、開催場所はオンラインでもオフラインでも構いません。
さて、SEO 対策の一環として(笑)定義を述べたところで、次は Ahrefs がなぜイベントマーケティングを行うのか、理由をご説明しましょう。
Ahrefs は提供ツールをユーザーにセルフサービスで使ってもらう SaaS(ソフトウェアサービス提供)企業ですが、なぜイベントを開催していると思いますか?
答えは簡単です。ビジネスとはソーシャルな性質を持ったものだからです。人間は、純粋にメリットとデメリットだけを天秤にかけて商品の購入を決める、論理的で合理的な生き物ではありません。私たちが何かを購入するのは、商品ブランドやその背後にいる人々と感情的かつ人間的なつながりを感じた時です。

そういったつながりを感じてもらうには、製品の作り手と「直接会う」ことに勝る方法はありません。コロナウイルスの大流行中、私たちは皆このことを身に染みて感じたと思います。この核となる考え方が、Ahrefs がイベントやカンファレンスを開催するその他の理由にも通じています。
- Ahrefs ユーザーが集まり、お互いにネットワークを築き、学び合い、パートナーシップやビジネスの機会を生むような有益なオフラインイベントを開催したい。
- ユーザー達と直接話し、人気のオリジナルグッズをプレゼントしたり、共に時間を過ごしながら彼らについて知ることで、今後さらに優れた製品を提供するヒントを得て(願わくば)ユーザーにより愛されるブランドになりたい。
- Ahrefs の法人営業チームが重要なクライアントと直接話す機会を作りたい。
- Ahrefs 新製品の機能とより効果的な活用方法をユーザーに伝えたい。
- まだツールを利用していない人を Ahrefs の虜(とりこ)にし、ブランドを気に入ってもらうことで、ユーザーを増やしたい。

ここで挙げたイベントの開催理由に共感してくださった方は、ぜひこのまま読み進めてブランドのイベントマーケティング手法を学んでください。
私たちの人生と同じように、ビジネスにおいても設定する目標によって取り組みの方向性が変わってきます。ここではまず、皆さんのビジネス目標を考慮し、そもそもイベントの企画が実際に必要かどうかを決めましょう。
正直なところ、イベントを最初から最後まで企画・運営するには多額の費用が必要となることもあります。食事、会場、音響設備(AV)など、あらゆる点でお金がかかります。たとえ食べ物の提供はせず、無料の会場を利用し、ゲストスピーカーを招いた講演を行わない場合でも、人手は必要となってきます。アルバイトのスタッフを雇えばコストがかかります。自社スタッフを使う場合でも、その分彼らの業務時間が犠牲になることを忘れないでください。
たとえば筆者の場合、イベントに参加したりスピーカーとして登壇したりするたびに、コンテンツ制作に費やせる時間が減ってしまいます。ちなみに、筆者のケースではこれは実は必ずしも悪いことではありません。イベントで講演することで私個人のブランド(知名度)がより確立され、信頼性が高まり、ひいては筆者の作成するコンテンツのパフォーマンス向上にもあらゆる方向から計り知れない好影響がもたらされるからです。

さて、目標の話に戻りましょう。皆さんは何を達成したいですか?
SMART、OKR、BHAG など、お好きなフレームワークを使って考えてみてください。どれを使っても大差はありません。重要なのは、目標と方向性を持つことです。
ちなみに、イベント開催が自社にとって大変有用なマーケティングチャネルだと思っている場合でも、まずは他社イベントのスポンサーから始めることも検討してみてください。実際、Ahrefs Evolve を運営する前、Ahrefs は何年にもわたって他社開催のカンファレンスのスポンサーを務めていました。
たとえばタイのチェンマイで開催される Chiang Mai SEO カンファレンスには 7 年以上もスポンサーとして参加しています。

イギリスのブライトンで開催される BrightonSEO にもここ数年参加しています。

また、SaaS 企業をつなぐプラットフォーム提供企業、SaaStock 開催のカンファレンスにも参加。

その他多くのイベントにも協賛、参加しています。

他社開催のカンファレンスにスポンサーやスピーカーとして参加した経験が、Ahrefs オリジナルのカンファレンスを作り上げる上で大きな参考になったと思います。人々がカンファレンスに対して何を期待するのか、どんなアクティビティが好評で、どんなものが不評なのかが既に分かっていたからです。
ターゲットとするオーディエンスが定まれば、どんな種類のイベントを企画し、どんな講演者を招待すれば良いかが決まります。また、他企業にとっては皆さんのイベントのスポンサーになりたいかどうかを決める上での判断基準にもなります。
Ahrefs Evolve では、SEO 専門家だけではなく、トップクラスのデジタルマーケティング専門家を集めたいと考えました。
これが最終的な講演者のラインナップに影響し、アカウントベースドマーケティング(ABM)、パフォーマンスブランディング、TikTok など、さまざま分野について講演するスピーカーを迎えることになりました。



多くの企業が、自社のブランド名を冠した大規模なカンファレンス開催を夢見ています。

しかし、いきなりカンファレンスの開催に飛び込むのは大きな間違いです。業界トップのツールを提供する企業として広く認知されている Ahrefs でさえ、Evolve を実現するまでに何年もかかりました。
Ahrefs チームの自社カンファレンス開催に至るまでの軌跡を、以下の図で示しました。

先述のように、Ahrefs ではまず他社イベントのスポンサーになるところから始めました。その後、イベント開催の道に本格的に足を踏み入れることにしたとき、まずはオフィス内でちょっとしたネットワーキングイベント(ビールとスナックを片手に語り合う SEO ナイト)を主催してみました。

特に議題などはなく、様々な企業で働く SEO 専門家とデジタルマーケターがドリンクを片手に雑談するだけのイベントでした。
その後、これをベースに少しずつ構築を始めることでイベントの内容に複雑さを加えていきました。そして情報提供型のイベントへと進化させるため、プレゼンテーションやパネルディスカッションを取り入れるようになりました。

次に、こういったイベントを有料のワークショップへとグレードアップさせていきました。

その後、Chiang Mai SEO など、すでにスポンサーとして参加していたカンファレンスで有料ワークショップの開催を始めました。

これらの活動が最終的に、2023 年の「シンガポール SEO サミット」と名付けた小規模カンファレンスの開催へと発展しました。

Ahrefs チームは小さな会場を押さえ、イベントの宣伝対象はシンガポール人のみとし、チケットの販売数を 200 枚に限定しました。オーストラリアから参加したジェームス・ノークウェイさんとニック・レンジャーさんを除き、講演者のほとんどにはシンガポールに拠点を置く人たちを招待しました。

チケットは完売とはならなかったものの、このカンファレンスのおかげで、より規模を拡大した国際的なカンファレンスの開催も可能だろうという自信が得られました。このイベントは以下の点にもかかわらず、最終的に成功をおさめました。
- 「大物」講演者の不在
- 短い期間での開催
- 参加募集対象はシンガポールを拠点とする人のみ
最も大きな収穫は、Ahrefs のカンファレンスに参加するためだけにわざわざシンガポールまで喜んで来てくれる人たちがいると分かったことです。タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、さらには韓国からも参加者がいました。

これらの国はシンガポールからそれほど遠くないだろうと思った方もいるかもしれません。ですが、ASEAN諸国(シンガポールを除く)はまだそれほど経済的に発展しておらず、(物価が高いことで有名な)シンガポールまでのフライトとホテル滞在には多額の費用がかかるという点を忘れないでください。彼らがこういった費用を負担してまで参加してくれたという事実は、Ahrefs の確かなブランド力を証明するものです。
このイベントの成功を受け、Ahrefs は 2024 年の 500 人規模のカンファレンス開催を決定しました。
これはシャーミンが教えてくれたことの 1 つですが、イベントのあらゆる要素は最終的には予算に左右されます。
予算を立てるということは、次の 2 つの重要な質問への答えを考えるということです。
- 何が必要で、全体の費用はどれくらいかかるか?
- イベントでどのように収益を得るのか?
費用
以下は Ahrefs がカンファレンス開催にあたって必要と考えたものと、その推定コストの一覧です。
カテゴリ | 項目 | 推定費用(SGD) |
---|---|---|
会場 | メインイベント会場、イベントとアフターパーティーでの食べ物や飲み物のケータリング代 | $150,000 — $300,000 |
食べ物・飲み物 | スナック、ソフトドリンク、ジュース、お酒、お酒の割り材 | $10,000 — $20,000 |
イベント運営会社 | AV 機器(サウンドカード、スピーカー、マイク、プレゼン用リモコン、モニター、カメラ、ビデオとサウンドミキサー、ケーブルなど) スタッフ(設営、運営、イベントプログラム管理、マネージャー) 参加者登録(アルバイトが担当。専用ソフトを使った登録作業、参加者バッジ印刷、チェックイン時のチケットスキャン) イベントアプリ(設定・運営・サポート) ネックストラップ、名札、カードホルダーの用意 | $50,000 — $200,000 |
展示ブース・ディスプレイ設備 | テレビモニター、テーブル、テーブルクロス、スクリーン、モニター | $2,000 |
スピーカーへの謝礼 | 講演料、宿泊費、ディナー | $40,000 — $60,000 |
写真・動画撮影 | 撮影、編集、ドローンの使用 | $7,000 |
記念グッズ | VIP 用と一般用 | $20,000 |
その他会場準備 | LED ウォール、フォトウォール、フォトゾーン、ステッカーウォール、キーホルダーなど | $25,000 |
マーケティング・広告宣伝 | 有料広告、宣伝費用、イベント管理用のソフトウェアなど | $20,000 |
その他設備 | 充電ステーション、ポータブルクーラー、ポスター、サイネージなど | $5,000 |
雑費 | 交通費、直前に買い足すものなど | $2,000 |
本当にこんなにお金をかける必要が本当にあるのでしょうか?それはイベントの規模によって変わってきます。
Ahrefs では Ahrefs Evolve を特別で素晴らしいものにしたかったので、これらすべてが必要だと判断しました。とはいえ、初期のネットワーキングイベントでは、食べ物と飲み物しか用意しませんでした。その後、ワークショップを始めた際に、AV 機器の購入に一度費用がかかったのみです。
予算額はどんなイベント内容を提供したいかによっても異なります。たとえば、Ahrefs のイベントマーケティングチームは参加者が(受賞歴もある美しい建物の中にある)会場を離れ、顔見知りの仲間同士で固まって別の場所に移動してしまうのはもったいないと感じました。彼らには会場に留まり、ネットワーキングをしてほしかったのです。そこで、食事のケータリングをしてくれるホテルを会場に選びました。

BrightonSEO などの他のカンファレンスでは、ランチやディナーは提供されていません。
食事の用意の有無にかかわらず、会場とは必ず費用面の交渉をしてください。交渉をすることで多くの追加料金をカットできます。
たとえば Ahrefs が使った会場は、利益の損失を埋めるために「一晩分の会場確保料」を請求すると言ってきました。というのも、シンガポールではホテルは結婚式会場としての需要が高いからです。 (カンファレンス準備のために)会場を前日の夜から押さえなければなりませんでしたが、ホテル側としてはこの一晩も結婚式に会場を貸すことができた可能性があるため、その場合に得られただろう売り上げを「利益損失の穴埋め」として請求したかったようです。
しかし、イベント開催前夜は木曜の夜であり、木曜の夜に結婚式を挙げる人は非常に稀です。

特に Ahrefs のように大規模な会場を借りる場合は、請求書の内容を項目ごとに確認し、不当な料金や手数料が発生しないようにしてください。もしそういったチャージを見つけたら、支払わなくてもいいように交渉してください。
チケットの販売
イベントの予算は、イベントから得られる見込み収益額に合わせて設定します。十分な収益が期待出来れば、その分のお金を運営に使えるというわけです。しかし、イベントを通じてどうやって収益をあげられるのでしょうか?
最も分かりやすいのはもちろん、チケット販売の収益です。
では、チケット 1 枚あたりいくらに料金設定すれば良いのでしょうか?以下にいくつかの考慮すべきポイントを挙げます。
- チケットの売り上げで開催費用をカバーしなければならないが、同時に魅力的な料金設定も必要。
- イベントの参加者はなぜか直前にチケットを購入することが多く、このせいでイベントチームがパニックを起こすことも。早めに参加を決めてもらうために、早期購入割引などで参加者が早めに決定するよう促すのが良い。
- 企業が 3 ~ 5 人(場合によってはそれ以上)のチームを派遣する場合があるため、チケットの複数購入特典も用意すると良い。その場合は料金の割引がおすすめ。
- 料金設定のバリエーションも重要。たとえば、Ahrefs では特別な待遇を約束した VIP チケットを用意。ただし、VIP 待遇の準備のためよりコストがかかる場合も。
絶対的に正しいやり方があるわけではありません。最終的には、数字の計算や競合分析の結果をもとにしながら、直感でとりあえず試してみることも大切でしょう。
Ahrefs では最終的に、以下のような料金設定にしました。

- 一般チケットは 650 ドル、早期購入割引で 570 ドル(さらに複数購入の場合は最大 20% オフ)
- VIP チケットは 980 ドル、早期購入割引で 840 ドル

すべての割引特典はカンファレンス開催の 2 か月前である 8 月 1 日まで利用可能としました。
スポンサー
次に重要な収入源はスポンサーからの協賛金です。スポンサーとは、イベントで自社ブランドを宣伝してもらうためにお金を払う企業や個人のことです。この宣伝活動には、講演枠の確保やブース出展が含まれることもあります。
Ahrefs Evolve の場合、以下の企業がスポンサーとなってくれました。
スポンサーの獲得方法については、「スポンサーの確保」セクションで詳しく説明します。

助成金
最後に、助成金についても忘れないでください。独自のイベントを開催する企業、特に大勢の観光客を呼び込む可能性のある大規模イベントを開催する企業に対して、政府などから受けられる支援がないかを確認しましょう。
たとえば、Ahrefs ではシンガポール観光局からの助成金に申請しようとしました。

今回は助成金の確保は上手くいきませんでしたが、試してみる価値はあります!
シャーミンによると、ほとんどの大規模イベントは初回では収益はあがりません。損失が出る方が一般的です。
だからこそ、予算は現実的な金額である必要があります。前年のシンガポール SEO サミット開催の経験があったため、シャーミンにとって今回の予算の見積もりは「比較的簡単」だったようです。それでも、Ahrefs Evolve の目標は控えめに「収益と開催費用のプラスマイナスゼロ」に留めていました。
これが、まずは小規模イベントから始めるべきだと考える理由です。それ以外にも、初めてイベントを企画するにあたって陥りやすい問題点はいくつかあります。
- すべてにどれくらいの費用がかかるか見当がつかない。
- 会場などの妥当な利用料金が分からないため、必要以上の料金を支払ってしまう可能性がある。
- 特定の項目(食べ物や飲み物の量など)の予算を低く見積もりすぎている可能性がある。
- チケット料金の設定額は、最終的には人々の需要に応じて決まる。
Ahrefs は数千ものユーザーを抱え、強力なブランドを構築しており、人気のスピーカーを招待できるコネクションもあったため、今回の料金設定を正当なものとして打ち出すことが可能だった。
どこからともなく突然カンファレンスを開催し、10,000 ドルの VIP チケットを売ろうとしても、興味を持ってくれる人はいない。
小規模イベントの場合、日程には融通がききます。Ahrefs のネットワーキングイベントの場合、通常開催日の 2 ~ 3 週間前に発表しています。

大規模カンファレンスでは、開催日程が適切に設定されているかどうか、以下の点を確認する必要がありました。
- 大きな祝日と重ならないこと(例:シンガポールの春節)
- 大型イベントと重ならないこと(例:シンガポールで開催される F1)
- 同地域内の他の主要な業界イベントと重なっていないか(例:Chiang Mai SEOなど)
- イベント準備に十分な時間が確保できること
- その日程で会場が利用可能であること
会場を選ぶ際には、次の点を考慮してください。
検討項目 | 確認事項 |
---|---|
空き状況 | 希望の日程で会場が利用可能か |
立地 | アクセスが良く、参加者が来やすい場所か |
大きさ | 参加が見込まれるゲストの数に対応できるか、ネットワーキングやスポンサーブース設置のためのスペースがあるか |
利用料金 | 予算内におさまるか |
外観・内装 | 外観や内装が求める雰囲気に合っているか |
食事 | ケータリングの質、また様々な食事ニーズに対応できるかどうか(ヴィーガン、ハラールなど) |
トイレ | 十分な数のトイレ・個室があるか |
WiFi 環境 | WiFi の速度が十分か |
提供サービスの質 | イベント当日に質の高いサービスが提供可能か、事前のやり取りがプロフェッショナルでスムーズか |
Evolve の場合、シャーミンは次の 3 つの日程を最終候補に挙げました。
- 10 月 24 ~ 25 日
- 11 月 7 ~ 8 日
- 11 月 14 ~ 15 日
それから、会場に求める条件を設定しました。
- 候補に挙げた開催日程で利用可能。
- 場所はオーチャードエリアまたは CBD エリア(セントラルビジネスディストリクト)。
- トイレの数が十分にあること。あるホテルにはトイレごとに個室が 4 つほどしかなく、500 人の参加者には大きな問題になるため、候補から除外した。
- 天井が高く、モダンな雰囲気の内装(いかにも Z 世代らしい好み)。また、会場に LED ウォールが設置されているのが理想的。
- 500 人を収容できる広さであること。シンガポール国内にある会場のほとんどは 100 ~ 200 人か 700 ~ 1,000 人収容のスペースだったため、この条件を満たす会場の確保は困難だった。
シャーミンはこの条件をもとに 10 軒のホテルを候補としてリストアップし、ホテルのイベントチームにメールで連絡をとり、下見に行った後、最終的に 2 軒に絞り込みました。
当初第一希望だった会場の営業担当者がメール 1 件ごとの返信に最大 4 週間もかかったため、最終候補の 2 つからはずれ、最終的な会場が決まりました。こういった(連絡に時間がかかるなどの)傾向はその後のイベント準備や運営にも影響してくるだろうと分かるので、会場選びの際に考慮すべき重要な点です。イベント企画自体が大変なミッションなのに、会場との連携がスムーズにいかず、準備の妨げになることは望ましくありません。迅速でプロフェッショナルな対応をしてくれ、サービス精神とホスピタリティの感じられるイベントチームのいる会場を選びましょう。

シャーミンは会場に、食事コーナーを設けるようにも頼みました。ほとんどの人がシンガポール外からの参加者だったため、カンファレンスで私たちの国の文化と料理を楽しんでもらいたいと考えました。

参加者に新たな知識を学んでもらう趣旨のイベントを行う場合、イベントを大きく左右するのが講演者です。誰かの話を聞きたいという理由だけでイベントに参加する人は大勢います。たとえば筆者は 2016 年に、ゲイリー・ヴェイナチャックのボクシング試合会場でのスピーチを聞くためだけにロンドンまで飛びました。

したがって、スピーカーの質によって人が集まるかどうか、また料金をどのくらいに設定できるかが決まってきます。
Ahrefs がカンファレンスの計画に着手したとき、すでに何人かのスピーカー候補の名前が挙がっていました。特にリリー・レイさん、サイラス・シェパードさん、アレイダ・ソリスさんといった人たちは、アジア地域で開催されるカンファレンスではあまり見かけないので、大きな注目を集めるだろうということが分かっていました。



繰り返しになりますが、Ahrefs のブランド力と CMO のティム・ソウロの人脈のおかげで、スピーカーを簡単に確保することができました。
また、今回は Ahrefs 主催のカンファレンスだったので、Ahrefs チームのメンバーにも講演してもらいたいと考えました。したがって、私の同僚のティム、サム・オー、パトリック・ストックス、ライアン・ローもスピーカーのリストに加わりました。




また、カンファレンス特設ページでもスピーカーとして参加したい人を募集しました。

応募者には、職場での役職、所在地、最近講演したイベント、講演タイトルの案とその概要など、いくつかの情報を尋ねました。

この選考プロセスに参加した筆者は、彼らのトピックを精査し、カンファレンスをより良いものにしてくれると思えた人たちを最終候補に絞り、その後正式に招待しました。
彼らから参加の意思表示をもらえたら、プレゼンテーションの正式なタイトルと概要説明を送ってもらいましょう。プレゼンのスライドを提出する期限は必ず指定してください。Ahrefs チームの場合は、10 月 20 日までに資料を提出するよう依頼しました。
また、同僚のコンスタンスに彼らのプレゼンテーションをすべて細かくチェックしてもらいました。各講演者が自社製品やサービスを売り込むだけではなく、参加者にとって真に有益な情報を含んだ内容であるかどうかを確かめたかったからです。また、カンファレンスで公開するのに不適切なコンテンツも事前に取り除きたいと考えました。
実際、各プレゼンテーションを事前にチェックすることで、どの講演をカンファレンスの始めに、あるいは終わりに持ってくればいいかが分かり、講演スケジュールの決定にも役立ちました。

ここでは、Ahrefs チームが Ahrefs Evolve の宣伝のために行ったことをすべてご紹介します。
料金の割引実施
先述の通り、早割とグループ割引を実施しました。

イベント専用のランディングページ制作
この特設ページが Ahrefs Evolve の最も重要なマーケティングチャネルの 1 つとなりました。すでに何度も言ったとおり、以前すでに小規模カンファレンスを開催していたおかげで、その時の告知ページを基本テンプレートとして使えたのは便利でした。

プロモーションの早い段階でこのページを公開したため、初めのうちはまだすべての情報が出揃っていませんでした。したがって、未定の情報は「近日公開予定」と表記しました。

会場、講演者、スポンサーといったさまざまな要素が確定次第、ランディングページを徐々に更新していきました。
また、ほとんどの参加者が初めてシンガポールを訪れることも分かっていたので、「シンガポールでおすすめの観光スポット」セクションを作成しました。

ソーシャルメディアの自社アカウントから発信
言うまでもなく、Ahrefs チームは利用可能なあらゆるチャネルを通してプロモーションを開始しました。まずはいつも通り、LinkedIn と X への投稿から始めました。


マーケティングチームのメンバー、特にシャーミンとティムも定期的に Evolve についての投稿をアップしました。


また、Ahrefs のユーザーにアプリ内でメッセージを送りました。

ニュースレターの登録者には、定期的に配信するメール内で告知しました。


また、ブログや記事のページ内にイベントのバナーを貼りました。

講演者による告知動画
さらに、招待スピーカーの紹介コンテンツも制作。スピーカー達に動画内でカンファレンスの宣伝をお願いしました。


会場のビデオツアー
ある人が Ahrefs CMO のティムに、Ahrefs の優れたマーケティングの秘訣は、チームメンバーの持つ素晴らしいセンスだと言ったそうです。これは会場選びの際にも発揮されました。
これ以上ない会場が押さえられたので、ぜひ多くの人に知ってもらいたいと思いました。それに、カンファレンスの成功には会場選びが重要な役割を果たしているにもかかわらず、カンファレンス主催者が会場の宣伝をしているのはほとんど見たことがありません。
だからこそ、ティムはカンファレンスの告知と同時に、会場も宣伝する動画を制作しました。
告知コンテンツの制作
Ahrefs は「カンファレンス」という単語に関連したキーワードをターゲットにした 2 件のブログ記事を公開しました。カンファレンス関連の検索結果で上位に表示されることで、Ahrefs Evolve の認知度が高まりました。
もちろん、これらのキーワードはキーワードエクスプローラーで探しました。

また、いくつかのユニークな視点からもコンテンツのアイデアを考え、制作しました。たとえば、「上司を説得して Evolve に参加させてもらう方法」を指南するブログ記事を投稿しました。

また「Evolve で登壇する最高の SEO カンファレンススピーカー陣から学べる」と謳った、「SEO カンファレンスに講演者として参加する方法」を紹介した記事も公開。

アドバルーンでの宣伝
Ahrefs チームは多くの場合、マーケティングに関してはリスクを厭わない傾向があります。カンファレンスの宣伝も例外ではありませんでした。Ahrefs は巨大なヘリウム風船を特注して空に飛ばし、その様子を写真に撮ってカンファレンスの広告写真として使用しました(どうですか?生成 AI で作った画像ではありませんよ!)。


他の Ahrefs イベントでの告知
ワークショップなど他のオフラインイベントも引き続き開催していたので、そこでも宣伝していきました。


有料広告の利用
Facebook と Instagram にカンファレンスの宣伝広告を掲載しました。

チケットの希少性を強調した宣伝
チケットに希少価値があり、見た人に買い逃したくないと思わせるような宣伝文句を常に入れるようにしました。たとえば、チケットが完売したり、売れ行きのスピードが速まるたびにそれをお知らせする投稿をアップしました。


どの国からの参加者がいるかのデータも公開しました。

また、カンファレンスへのチケットと会場である 5 つ星ホテルでの滞在をプレゼントする企画も実施。


最後に、チケット購入者が Evolve に参加予定であることを SNS で共有できる画像を特別に作成しました。

すべてのスポンサー企業が聞きたがるであろう質問はずばり、「あなたのイベントのスポンサーになったらどんな良いことがありますか?」
通常、次のような特典があります。
- 現場でのブランド広告(例:ステージ上や壁面ディスプレイ上、あるいはネックストラップにスポンサーとして記載)
- イベント中、ステージに立つ開催者や講演者からスポンサーとして紹介
- イベント特設ページやウェブサイトおよびソーシャルメディアにてスポンサーとして紹介
- 必要な設備がそなわった出展ブースの提供
- 講演枠の確保
- 無料イベントチケットの配布
ほとんどのカンファレンスでは、これらの特典をレギュラー、ゴールド、プラチナといったグレード別に用意しています。たとえば、Chiang Mai SEO のプラチナスポンサー特典は以下のような内容です。
- ステージ上でのプレゼンテーション 20 分 + 質疑応答 10 分
- ベンダーブース(バックドロップ幕、ロールアップバナー、テレビモニターなどを完備)の設置位置を希望通り指定できる
- ステージの背景幕と会場内のディスプレイ表示にプラチナパートナーとして記載
- イベント参加者用の名札にブランドロゴの記載
- 休憩時間にステージ上の MC から出展ブースの紹介
- イベントウェブサイトおよび告知メールでのブランドロゴの記載
- イベント専用アプリ内でのバーチャルブース出展とバナー広告掲載
- デラックスチケット購入者対象にイベントグッズ入りバッグの提供
- デラックスパス 2 枚
- ベンダーパス 3 枚
Ahrefs にとって今回は初めてのイベントだったので、特典内容はシンプルにしたいと思いました。そこで、すべてのスポンサーに以下の同じ特典を用意しました。
- テーブル、椅子、延長ケーブルなどの必需品を備えた展示ブース。追加設備が必要な企業には、おすすめのサプライヤーの情報提供も。
- ソーシャルメディアやイベントページでのスポンサーとしての紹介。
- イベント全期間にわたって現場にブランド広告を掲載。
- 無料のイベントチケット 3 枚。


スポンサーを募るにあたり、Ahrefs チームはまずつながりのある企業に連絡を取り、カンファレンスのスポンサーになってもらえないかを尋ねました。イベント特設ページにスポンサー希望者向けの問い合わせフォームも設置しました。

実際のイベントの運営に関しては、その大部分をイベント代理店と提携して行いました。彼らには以下の部分を担当してもらいました。
- AV
- 照明
- スタッフやアルバイトの管理も含めたイベントプロダクション管理
- ソフトウェアでの参加者登録、データ分析、アルバイトスタッフの活用
- ネックストラップの準備

また、VIP ネットワーキングナイトを含む 3 日間は写真・動画撮影チームも雇いました。

マーケティングおよびサポートチームのその他のメンバーも、VIP ブースの対応から記念品の配布、講演者の接待や参加者の誘導まで、あらゆる面で協力してくれました。

それでも、イベントに関してはマーフィーの法則が常に成り立つことにご注意ください。
どれだけ準備をしたとしても、どれだけ仕事の割り振りやアウトソーシングをしっかり行ったとしても、必ずどこかでうまくいかない部分が出てきます。当日は皆さんやイベントチームのメンバーが土壇場で問題やエラーを回避すべく、現場で常に動いていなければなりません。
イベント開催中の丸 1 週間、シャーミンはまるで戦場の騎馬兵のように現場に立ちつづけ、カンファレンスがスムーズに進行するよう尽力していました。彼女が対応しなければならなかったことは、言葉では言い表せないほど大変だったでしょう。
カンファレンスのような大型イベントを終えたら、まずは休みをとりましょう。仕事からできるだけ離れて、パソコンをロックし、携帯電話の電源を切りましょう。マッサージやネイルサロンに行き、好きなだけ寝てください。
それだけよく頑張ったからです。
イベント運営に関わる方々はよくご存じでしょうが、今取り組んでいるイベントが終わるとまた次のイベント準備がやってきます…。
数日(できれば数週間)の休暇の後、次のイベント企画が始まります。シャーミンは、今回の経験を生かして Evolve 2025 も見事に作り上げてくれることでしょう(Ahrefs のイベントに関する通知を受け取りたい場合は、こちらから登録してください!)。
それまでの間、イベントの興奮がまだ冷めないうちに、アンケートを送ってフィードバックを集めておきましょう。

参加者には、以下の点について評価してもらいましょう。
- カンファレンスでの体験
- イベントを主催した組織について
- スピーカーの質(気に入った順にランク付けも)
- 会場と設備
- カンファレンス開催期間の長さ
- スポンサー
- イベントに関する連絡は十分だったか
さらに、改善できる点について文章でのフィードバックもお願いすると良いでしょう。
また、自社のチームに意見を聞くことも忘れないでください。

そして、スポンサーにもフィードバックを求めましょう。

さまざまな意見が集まったら、チームに報告し、次のイベントに向けた改善点を特定しましょう。
また、イベントの振り返り記事の投稿も忘れないでください。
まとめ
このガイドはステップごとに順を追って書かれているように見えるかもしれませんが、必ずしもこの順番で準備が進められる訳ではありません。イベント当日の運営以外は、ほとんどが同時進行で進めていくタスクです。
つまり、会場をまだ決めていないとしても、講演者やスポンサーに連絡を取ったり、マーケティング素材を作成したり、デザインを完成させたり、スタッフや物品の手配を確実に進めておく必要があるということです。
イベントの開催には非常に多くの要素が含まれるため、この記事ですべてを取り上げることはできません。一例をあげると、何人かの参加者がシンガポール入国ビザ申請のサポートを求めて Ahrefs チームに連絡してきました。そこで Ahrefs は、彼らのためにビザ申請の際の渡航説明に使える、イベント概要を説明したこのようなテンプレートを作成しました。

今回のイベントマーケティングについてかなりの情報をシェアしましたが、すべての詳細は唯一、シャーミンの頭の中にあります。彼女をパソコンに接続し、情報をダウンロードできれば一番かもしれませんが(笑)、次回の Evolve の運営にも彼女が必要なのでこのあたりでご勘弁ください。
最後にお伝えしておくと、Ahrefs は無事に今回のイベントの目標を達成することができました。 これからのイベントにもぜひご期待ください!