ユーザーが(AI の回答から)離れるためのクリックをするという決断をした時、そのクリックは流入先サイトにとってより「質が高い」のです・・・私たちが長期的に期待しているのは—この点について共有できるデータはありませんが—サイト滞在時間が長くなることです。これは、ウェブサイトにとって非常に質の高い訪問者に見られる自然な傾向です。
AI Overview のような機能でユーザーのフリクション(手間)が減ると、人々はより頻繁に検索するようになり、それがウェブサイト、クリエイター、パブリッシャーにとって新たなチャンスになります。さらに、より質の高いクリックを獲得できるのです。
残念ながら、私たちはこの主張が正しいのか、はたまた大間違いなのかを検証することさえできません。なぜなら Google は、サーチコンソールや分析ツールにおいて、AI による検索トラフィックと従来の検索トラフィックを区別する機能を提供していないからです。
しかし、他の主要な AI プラットフォームからのユーザークリックであれば評価することは可能です。そして、今回 Ahrefs が行ったのが、まさにそれです。
Ahrefs では 81,947 ものサイトを分析し、AI トラフィックの質とユーザー行動を、検索トラフィックやサイト全体の平均的なユーザー行動と比較・調査しました。
この調査で明らかになったことは、以下のとおりです。
Ahrefs では 2025 年 5 月から 6 月にかけて、約 82,000 のウェブサイトのトラフィックを調査し、訪問者の流入元(検索、AI、または「すべて」のチャネル)によってユーザー行動がどのように変化するかを分析しました。
平均閲覧ページ数、セッションあたりの滞在時間、サイト滞在時間、直帰率といったユーザー行動指標を分析することで、Ahrefs チームは「AI トラフィック」の質について、より深く理解することができました。
本記事では、各チャネルを「検索トラフィック」「AI トラフィック」そして「全体トラフィック」と呼んで解説します。
- 検索トラフィックとは、リファラードメインが分析プラットフォームによって検索エンジン(Google、Bing、Yahoo など)として識別されたトラフィックを指す。これには、Google の AI Overview や AI モードといった AI 搭載の検索機能からの訪問も含まれる場合がある。
- AI トラフィックとは、ChatGPT、Perplexity、Copilot、Gemini といった対話型 AI プラットフォームからのトラフィックを指す。
ChatGPT や Perplexity といった主要な AI プラットフォームからの訪問者は、平均で 4 ページを閲覧しています。これは、検索経由の訪問者より 1.2 ページ、サイト全体の訪問者の平均よりも 1.5 ページ少ない数値です。

AI ユーザーは、サイト内をあまり深いところまで見てまわらない傾向も見られます。
Ahrefs チームは、平均セッション時間を平均ページ滞在時間で割って分析しました。その結果、AI ユーザーのセッションあたりのページ閲覧数(2.27)は、検索ユーザー(2.79)やサイト全体の平均(2.99)と比較して、著しく少ないことがわかりました。

とはいえ、AI 経由の訪問者のサイト滞在時間は、わずかに長い傾向があります。正確には 8 秒間長いのですが、すでに見たように、彼らが閲覧するページ数は全体的に少ないのです。
これは、彼らが滞在時間中、選ばれた少数のコンテンツを集中して閲覧していることを意味します。つまり、彼らのセッションは時間は長いものの、サイト内を深くまでは探索しない「浅い訪問」だと言えます。

これに対する一つの解釈として、AI ユーザーはより明確な意図を持っている、ということが考えられます。
彼らは AI を使ってすでにある程度のリサーチを終えているため、そこから更に何を求めているかが明確な状態で、特定の目的を持ってサイトを訪れます。だからこそ、目的のものを探してサイト内をあちこちクリックする必要がないのです。
Ahrefs のデータはまた、AI 経由の訪問者は、検索ユーザーよりも直帰率が 4.1%、サイト全体の平均的なユーザーよりも 5.4% 高いことも示しています。

この結果は、AI ユーザーがサイト内を見て回ったり探索したりする意欲が低いことを裏付けています。
ユーザーがサイトにランディングし、60~90 秒滞在して離脱した場合、考えられる理由は 2 つあります。
1. 目的を達成できた
ユーザーがサイトを訪れた後、すぐに期待通りの情報が見つかったからです。
実際に Ahrefs のサイトでは、AI 経由の訪問者はオーガニック検索からの訪問者よりもコンバージョン率が 23 倍高く、このケースが当てはまることが分かっています。
2. 回答に満足できず、離脱した
もちろんその一方で、高い直帰率はユーザーがサイトに満足しなかったことの表れである可能性もあります。
ユーザーが目にしたものが期待した内容とすぐに一致しなければ、彼らは直帰してしまいます。特に、コンテンツや UX(ユーザーエクスペリエンス)がそうしたユーザー向けにまだ最適化されていない場合はなおさらです。
まとめ
では、AI トラフィックの質は本当に高いのでしょうか?ユーザー行動の観点から見ると、必ずしもそうとは言えません。
AI ユーザーのほうが上回っていた唯一の指標はサイト滞在時間でしたが、その差はわずかです。
「直帰率が高く、セッションあたりのページ閲覧数が少なく、サイト滞在時間は長い」という 3 点から浮かび上がるユーザー行動は、特定の情報の真偽を確認するための閲覧か、あるいは「一回限りの目的達成型」の訪問です。
とはいえ、AI トラフィックは訪問者によるサイト上での「予期せぬ情報や製品の発見」のチャンスを増やしているとも言えるでしょう。ユーザーが短時間だけ滞在して離脱したとしても、それは必ずしも「質が低い」というシグナルではなく、コンテキスト(状況)が変わればプラスに働く可能性だってあるのです。
そしてもちろん、コンバージョンという重要な問題があります。
前述した Ahrefs の事例データが示すように、Ahrefs の場合は AI トラフィックの高いコンバージョン率 (約 12%) を記録しており、他社も同様の傾向を示しています。
たとえばアメリカのクラウド型PaaS企業、Vercel 社も、AI トラフィックのコンバージョン率 10% を達成しています。オンラインフォーム作成サービスを提供する Tally 社にとって AI が最大の顧客獲得チャネルとなっており、このおかげで年間経常収益 (ARR) が 100 万ドルもアップしています。
Ahrefs では Ahrefs ウェブアナリティクスでコンバージョン計測機能をリリースしたばかりですが、十分なデータが蓄積され次第、AI コンバージョンについてさらに深く掘り下げて分析したいと考えています。
それまでは、引き続き AI 関連のデータ調査を続け、新たな発見を皆さんとシェアしていきます!