
ゲストライター
GMO TECH × Ahrefs インタビュー SEO 歴 17 年の GMO TECH 執行役員 中原卓馬氏が語る、第 2 部:AI × Ahrefs × MCP で、AI 検索をどう分析するのか
ブランドレーダーを起点に約 4 万件の AI 回答を読み解き、ファンアウトクエリと「推薦の文法」を実務へつなげる。GMO TECH株式会社 執行役員、アルゴリズム研究室長の中原 卓馬氏に、その分析手法を伺いました。
AI 検索を分析する際、最初の難関になるのがプロンプトの設計です。何を観測するかを自社だけで決めると、都合のよい問いに偏り、市場の実態を正しく捉えにくくなります。中原氏がブランドレーダーに注目した大きな理由は、Ahrefs が蓄積したプロンプトを継続的に観測でき、それぞれの需要規模も確認できる点でした。
AI 検索は、流入やコンバージョンだけでは効果を捉えにくい領域です。だからこそ、どのプロンプトを計測対象にするかが、施策の評価を左右します。自社が期待する回答の出やすい問いや、実際の需要から外れた問いだけを選ぶと、すでに生まれている成果を見落とすことがあります。反対に、一部の結果だけを見て成果が出ていると判断する可能性もあります。計測の入り口を誤ると、その後の施策判断まで誤りかねません。
中原氏のもとには、顧客から「どのプロンプトを設定すればよいか」という相談が多く寄せられます。公平性を保ちながら問いを設計することは簡単ではありません。重要なのは、最初から自社でプロンプトを絞り込むことではなく、まず市場全体で実際に使われている問いと需要の分布を把握することです。
ブランドレーダーでは、Ahrefs が蓄積してきた膨大なプロンプトデータと検索需要をもとに、市場全体の傾向を確認できます。そこから自社と競合がどの問いで言及され、どこに差があるのかを見たうえで、継続的に追うカスタムプロンプトを設計する。この順序を守ることで、分析の出発点を恣意的に狭めず、成果を正しく捉えやすくなります。
複数のツールも比較しましたが、多くは利用者が登録したプロンプトの範囲で観測する仕組みでした。一方、ブランドレーダーでは、自社が想定していなかった問いや競合も含めて俯瞰できます。従来の SEO 分析で培った視点を、そのまま AI 検索へ広げられることも評価した点です。
中原氏:AI 検索は計測が難しいからこそ、プロンプトを見誤ると、成果が出ていても可視化できません。まず Ahrefs が蓄積している膨大なデータから全体像をつかみ、そのうえで自社が継続して見るプロンプトを決めることが重要です。
中原氏が確認しているのは、競合情報、言及数の推移、シェアオブボイス、引用ドメイン、引用ページ、AI の回答本文です。分析の基本は、これらを「量」と「文脈」の二層で捉えることです。
量の分析では、自社と競合の言及数やシェアオブボイスを時系列で比較します。自社のメンションが前月より減っていても、市場全体で AI 概要の表示機会が減っているのであれば、同じ期間に競合も下がっている可能性があります。競合と並べたグラフを見ることで、市場の変化に対して自社が上振れているのか、下振れているのかを切り分けられます。
文脈の分析では、回答本文を読み、ブランドがどのような理由で登場しているかを確認します。名前が選択肢の一つとして並んでいるだけなのか、特定の用途や条件における推奨として紹介されているのかでは、意味が異なります。言及回数だけを追わず、推薦の理由まで見ることで、次に整えるべき情報や接点が具体化します。
中原氏:競合、言及数の推移、シェアオブボイス、引用ドメイン、引用ページ、回答本文を、量と文脈の二階建てで見ています。
中原氏が特に大きな可能性を感じているのが、ファンアウトクエリです。ファンアウトクエリとは、AI が回答を組み立てる際に元の問いを分解し、関連情報を探すために展開するクエリを指します。これを把握すると、AI がどの情報を手がかりに回答を構成しているかを推測しやすくなります。
ブランドレーダーにこの機能が加わる前、中原氏は特許論文を読み、取得したプロンプト、回答、引用元 URL を組み合わせて仕組みを再現していました。引用元 URL をサイトエクスプローラーで調べ、複数ページが上位を獲得しているキーワードを統合し、回答からファンアウトクエリを逆算していたといいます。
現在は、ファンアウトクエリを集計し、特定のキーワードで上位を獲得した場合に、いくつのプロンプトへ影響し得るかを見ています。中原氏の分析例では、あるキーワードで 7 位を獲得することで、AI 概要、AI モード、ChatGPT、Claude を合わせた 80 のプロンプト、累計検索ボリューム 16 万 5,000 に対応できる可能性が見えました。
個々のプロンプトを一つずつ攻略するのではなく、多くの回答で参照される情報需要を見つけ、その検索領域や引用元を押さえる。ある顧客では、ファンアウトクエリで上位にある第三者サイトを特定し、関係構築を優先することで、AI 上のメンションがどう変化するかを検証しています。
中原氏:ファンアウトしたクエリを集計すると、このワードで上位を取れば、何個のプロンプトに対応できるかが見えてきます。
中原氏が約 4 万件の AI 回答を解析した背景には、用途によって推薦のされ方に法則があるのかを確かめたいという研究者としての関心がありました。たとえば同じ製品カテゴリーでも、初心者向け、業務向け、価格重視といった条件によって、AI が選ぶブランドや説明の組み立て方は変わります。大量の回答を横断して比較することで、個別の回答では見えない共通項を抽出しようとしました。
ここでいう「推薦の文法」とは、特定のブランドだけに通用する小技ではなく、複数の業界や用途に応用できる原則です。単なる言及では、ブランド名が候補として並ぶだけの場合があります。推薦では、誰に、どの用途で、なぜ適しているかという理由が伴います。実際、1 つの回答は平均 4.15 個、おおむね 4〜5 個の軸で構成されていました。中原氏は、この規則性を必要以上に細分化せず、汎用性の高い原則として捉えようとしています。
分析からは、AI の推薦が「どんな用途に強いか」「どんな機能に強みがあるか」という 2 つの軸を主軸に、「どんな人に向くか」「迷ったらこれ」といった軸の組み合わせで構成されることが見えてきました。知名度そのものより、条件と結びついた説明が推薦を左右します。自社サイトの記述だけを整えるのではなく、外部でどのように評価され、どのような用途と結びついているかまで確認する必要があります。
コンテンツ内の掲載位置も重要です。中原氏の実測では、AI の回答にそのまま取り込まれた文はページ前半に集中しており、末尾からの引用はほとんどありませんでした。そのため、「おすすめ 10 選」のような記事に掲載されていても、下位に置かれていれば AI の参照範囲に入らず、推薦へつながらない可能性があります。第三者メディアに掲載されることだけでなく、記事の中でどの位置にあり、どのような理由とともに紹介されているかまで確認する必要があります。
中原氏:言及されることと、推薦されることは違います。大量の回答を並べると、そこには一貫した規則性が見えてきます。軸を無駄に増やさず、汎用性の高い原則として整理したいと考えています。
分析は、ツールからデータを取得することだけでは終わりません。最初に問いや仮説を置き、ブランドレーダーからプロンプト、回答、引用元、競合データを取得します。必要に応じてサイトエクスプローラーの検索データを重ね、MCP を介して AI に渡し、大量の回答を同じ観点で分類、比較します。そこで得た傾向を人が確認し、次の仮説や施策へつなげます。
中原氏の研究では、既存のデータを眺めて終えるのではなく、「用途別に推薦の型は変わるのか」「特定のファンアウトクエリを押さえると、どの範囲に影響するのか」といった問いから分析が始まります。AI と MCP は集計や分類の範囲を広げますが、何を確かめたいかを決め、結果を事業や顧客支援へ戻す役割は人が担います。
中原氏:法則があるかを調べたくて仕方がない、というところから始まります。ただ、最後はお客様の成果に返るものにしたいと考えています。
これから AI 検索への対応を始める企業に対し、中原氏は、最初から複雑な設計をする必要はないと話します。まずブランドレーダーに自社と競合を登録し、用意されているプロンプトと実際の回答を見る。SEO と同じように、自社と競合の差分を把握することが出発点です。
その過程では、自社が競合と認識していなかった企業が、AI 上では有力な選択肢として推薦されている場合があります。こうした「ダークホース」を見つけ、市場全体のトレンドと自社の位置を確認すれば、個別の数値変化に振り回されにくくなります。
次に見るべきなのは、望まない文脈で推薦されていないか、料金や実績などに古い情報や事実誤認がないかです。シェアオブボイスを増やすことだけでなく、どのように理解されているかを継続的に確認することが重要です。
中原氏がブランドレーダーを評価する理由は、AI 検索上の可視性を計測できることだけではありません。Ahrefs が長年蓄積してきた検索需要、検索順位、流入、引用元などの SEO データと掛け合わせることで、「AI 上で何が起きているか」に加え、「なぜ起きているのか」「どこから改善すべきか」まで掘り下げられます。AI 検索の観測に特化した新しいツールが増える中、このデータ基盤が分析の信頼性を支えています。
この組み合わせは、従来のアクセス解析では説明しにくい変化を読み解く際にも役立ちます。中原氏が見た事例では、自然検索流入が減っているにもかかわらず収益は伸び、広告や OOH などの予算にも大きな変化はありませんでした。ブランドレーダーで確認すると、その企業の AI シェアオブボイスは伸びていました。流入の減少だけを見れば不調に見えても、これまで蓄積してきたコンテンツ、SEO、広報、外部施策が AI 上の推薦につながり、別の経路で事業成果を支えている可能性が見えてきます。
中原氏:これから AI 対策を始める方がやることは、シンプルです。まず自社と競合の差分を見て、全体のトレンドからずれていないかを確認する。望まない推薦や事実誤認がないかを見るところから始めればよいと思います。
AI シェアオブボイスと現在の見え方を把握した後は、AI にどのような強みで自社を認識してもらうかを明確にします。中原氏が避けるべきだと指摘するのが、「何でもできるオールラウンダー」として自社を表現することです。幅広い機能や用途を並べるだけでは、AI にとって、そのブランドを誰に、どの場面で推薦すべきかが曖昧になります。まず自社が選ばれる理由となる USP を定める必要があります。
USP を明確にするには、企業側の意図と市場の需要という 2 つの視点が必要です。1 つは、どのような人に、どのような文脈で AI から推薦されたいかを定め、そこから強調すべき USP と必要な情報を逆算すること。もう 1 つは、キーワードエクスプローラーを使い、ユーザーが実際にどのような言葉で課題や製品を検索しているかを確認することです。
企業が望む推薦のされ方だけで設計すると、実際の需要から離れる可能性があります。一方、検索数のある言葉だけを追うと、自社ならではの強みが曖昧になります。望む推薦文脈と実際の検索需要を照らし合わせ、両者が重なる領域を見つけることが重要です。
そのうえで、「自社の USP」「ブランド名」「製品名」の関係を、自社サイト、製品ページ、記事、PR、比較記事、企業プロフィールなどの接点で明確かつ一貫して記載します。AI がブランド名と製品名、強みを同じ文脈で認識できる状態をつくることが、意図した推薦につながります。
中原氏:何でもできるオールラウンダーでは、AI も誰に推薦すべきか判断できません。誰に、どのような文脈で推薦されたいかという意図と、実際に検索されている言葉という需要の両方を見る。そのうえで、USP とブランド名、製品名を確実に結びつけることが重要です。
今後、中原氏が追いたいのは、「推薦の文法」が時系列でどう変わるか、回答を構成する軸がどう移り変わるかというテーマです。Google マップや GBP を含むローカル検索、ファンアウトされるクエリの変化も研究対象です。観測と検証を重ねながら、成果につながる知見を顧客支援へ還元していく考えです。
AI 検索への対応は、まだ正解が一つに定まった領域ではありません。だからこそ、まずはブランドレーダーで自社と競合の AI シェアオブボイスを確認し、AI が自社をどのように捉え、何を根拠に推薦しているのかを知る。そこから回答、引用元、検索データの差分をたどることが、信頼できる AI 検索対策の第一歩になります。
そして中原氏にとって、AI 検索の研究は顧客の成果につなげる仕事であると同時に、AI が誕生し、進化していく過程を間近で観測できる貴重な機会でもあります。まだ評価方法も成功法則も固まっていない黎明期だからこそ、変化をデータから捉え、新しい規則性を明らかにできることに、研究者として大きな喜びを感じているといいます。
中原氏:AI が誕生し、進化していくこの黎明期に携わり、その変化を分析できることを非常にうれしく感じています。まだ分からないことが多いからこそ、データから新しい規則性を見つけていく過程は、研究者として大きな刺激があります。

Ahrefs 日本マーケティング統括。 国外 SaaS 企業における日本市場向けのマーケティングとローカリゼーションで 10 年以上の経験を積み、現在は Ahrefs の日本マーケティングを統括。ユーザーの皆さんと共に、Ahrefs を日本で盛り上げることを目標に、日々全力で取り組んでいます。