
ゲストライター
大規模な Web サイトの制作やフロントエンド開発を手がける、ちょっと株式会社。数千から数万ページに及ぶサイトを、表示速度だけでなく、情報を更新する人の業務や運用体制まで考えて構築しています。
同社が近年、制作・リニューアルの提案に取り入れているのが、Ahrefs の検索データと Claude を組み合わせた SEO 分析です。MCP を通じて Ahrefs と Claude を接続し、顧客サイトのキーワードや検索上の競合を調査。提案資料を作る傍らで分析を進め、限られた準備期間でも、デザインや機能の提案に数字で説明できる根拠を加えています。
一度は操作の難しさを感じた Ahrefs が、AI との連携でどのように実務に定着したのか。顧客の反応や提案業務の変化、AI 時代に制作会社が担う役割について、代表取締役社長の小島 芳樹氏に伺いました。
ちょっと株式会社の事業は、フロントエンド開発支援と Web サイト制作が中心です。開発支援では、フロントエンドエンジニアの不足や技術的な課題を抱える企業に対し、一般消費者向けの Web サービス、法人向け SaaS、社内業務システムなどの開発を支援しています。大規模な Web メディアの案件では、サイトの高速化や SEO に関わる技術的な改善も担います。
サイト制作では、microCMS や独自の CMS「Orizm」を活用。製品情報が豊富な企業サイト、多数の求人情報を掲載する採用サイト、日々更新されるメディアなど、情報量の多いサイトを得意としています。
こうしたサイトでは、閲覧者が使う画面だけを整えても、運用の課題は解決しません。更新担当者が使う管理画面や、複数の部門にまたがる確認の流れも重要です。
「表側の、ユーザーが直接見る画面だけでなく、管理画面もかなりカスタマイズできます。お客様が実現したい業務フローを形にしたり、これまで更新しにくかったところを更新しやすくしたりすることに力を入れています」(小島氏)
開発には Next.js を活用し、表示の高速化や複雑な外部連携にも対応。最近は、迷惑な問い合わせの判別やチャットボットなど、AI を組み込んだ機能の提供にも取り組んでいます。サイトを作る技術と、その後の運用を支える設計の両面が、同社の提案の基盤になっています。
SEO は、同社にとって突然取り組み始めた領域ではありません。WordPress を中心に制作していた頃から、サイトの表示速度や検索順位について相談を受けていました。当初は、顧客が契約する SEO コンサルティング会社から改善の依頼を受け、その内容を技術的に実装する立場が中心でした。
外部の専門家と仕事を重ねるうちに、社内でも SEO に関する理解が進みます。コンサルティング会社から提示された課題に対して、どのような実装なら対応できるのか。サイト構造や表示速度を、どこまで改善できるのか。制作会社として技術を理解しているからこそ、同社から提案できる場面が増えていきました。
その一方で、調査ツールを十分に使いこなせているわけではありませんでした。サイトのリニューアル提案などに分析ツールを取り入れながらも、操作やデータの見方に難しさを感じていたといいます。SNS などで知った Ahrefs も、気になって触ってみたものの、当初は使いこなすまでには至りませんでした。
再び試すきっかけになったのが、Ahrefs の MCP 対応です。MCP は、AI と外部のツールやデータをつなぐための仕組み。同社ではこれを通じて、Claude から Ahrefs のデータを扱うようになりました。
小島氏は、その前に Google アナリティクスや Google Search Console を MCP で接続し、AI に集計や分析を依頼する便利さを感じていました。分析を専門としない立場でも、問いかけを通じてデータを整理し、着目すべき点を考えられる。その経験が、Ahrefs をもう一度使ってみる後押しになりました。
図 1:Ahrefs と接続した Claude に調査を依頼しながら、人が提案資料を作成する。取材内容をもとにした概念図。製品画面ではありません。
サイト制作の商談では、初めから顧客のアクセス解析データを見られるとは限りません。Google アナリティクスなどの情報を共有してもらうには、秘密保持契約や社内手続きが必要になることがあります。複数社が参加するコンペでは、各社に同じ情報を提供するための調整が入ることもあります。
また、自社サイトのアクセス解析だけでは、検索上で競合する他社の状況までは把握できません。顧客の内部データを受け取る前に、サイトがどのようなキーワードで検索結果に現れているのか、どのサイトと競合しているのかを調べる手段が必要でした。
そこで役立ったのが、Ahrefs のデータです。顧客の解析環境へのアクセス権を前提にせず、検索キーワードや競合サイトの情報を調査し、初回の提案に向けた仮説を立てられるようになりました。Ahrefs の推計データは顧客のアクセス解析の実測値とは異なりますが、商談前の状況把握や競合比較の手がかりになります。
「最初は遊び心で始めてみたのですが、いろいろな回答が得られたので、これを使ってサイトリニューアルの提案ができそうだなと思いました」(小島氏)
小島氏が評価したのは、専門的な分析のすべてを AI に置き換えられることではありません。AI の分析は完全ではないとしつつも、これまで調査のために十分な費用や時間をかけにくかった顧客にも、SEO の視点を加えた提案を届けられる可能性を感じたといいます。
制作前に検索データを確認しておくことで、顧客から聞いた要望に加えて、検索上の状況を踏まえた質問や提案を持って商談に臨めるようになっています。
実際の提案業務では、Ahrefs と接続した Claude を調査に活用しています。小島氏が便利さを感じているのは、提案資料を準備する際の作業の進め方です。
「これまでは、調べることと資料を作ることを同時並行ではできませんでした。調べて、それが終わったら資料を作るという感じだったのですが、今はその脇で Claude に調べてもらえます。それがすごく楽だと感じています」(小島氏)
同社では、提案書の冒頭にリサーチの結果を示す構成を設けています。そこで取り上げるのが、顧客サイトで検索順位を獲得しているキーワード、検索上の競合、キーワードから読み取れるニーズなどです。
例えば、顧客が事業上の競合として挙げた企業が、必ずしも検索結果でも直接競合しているとは限りません。実際に検索順位を確認すると、別のサイトが同じキーワードで上位に表示されていることがあります。小島氏は、こうした違いを Ahrefs で見つけ、提案時に伝えています。
また、獲得できているキーワードから、顧客サイトがどのような情報を求められているのかを考えることもあります。顧客自身が想定していなかったニーズを読み取り、サイトの構成やコンテンツを検討する材料にしています。
これは、検索順位の一覧をそのまま資料に加えるだけの作業ではありません。調査で見つかった傾向を、サイト制作の提案に結びつける使い方です。Claude に調査を依頼できることで、限られた準備時間の中でも、制作の検討と検索データの確認を並行して進めやすくなりました。
画面例:Ahrefs MCP と Claude を使った分析。提供画像を日本語化した参考画面です。対象は ahrefs.com(2023〜2025 年)であり、ちょっと株式会社の分析結果・成果を示すものではありません。
キーワードの調査は、どのコンテンツを充実させるかという具体的な議論にもつながります。
小島氏が取材で挙げたのは、スポーツメディアに対する提案の例です。検索データから見える需要と、サイトが実際に提供している情報を照らし合わせることで、改善の候補が具体的になりました。
「選手の名前で検索して来ている人が多いのに、選手のページがあまり充実していないことがあります。それなら、もう少し内容を充実させられるのではないか。競合では取れているのに、こちらでは取れていないキーワードも分かって、打ち合わせがとても盛り上がりました」(小島氏)
編集に強みを持つメディアでも、検索データを十分に活用できているとは限りません。記事の質を高めることに加え、どの情報に需要があり、既存の記事やページがその需要にどこまで応えられているかを確認する余地があります。
同社が目指しているのは、そうした顧客に対し、データの見方と改善の方向性を制作の立場から提案することです。何を作り直すかだけでなく、既にある情報をどのように充実させるかまで、相談の範囲が広がっています。
図 2:検索需要と既存ページの内容を比較し、情報を充実させる提案につなげる。取材内容をもとにした概念図。施策実施後の成果を示すものではありません。
SEO 分析を提案に組み込むようになり、顧客の反応にも変化がありました。
小島氏によると、Web デザインの提案は、広告クリエイティブに近い側面があり、「こういうイメージにしましょう」という抽象的な説明になりやすかったといいます。同社にも、以前はそのような傾向がありました。
一方、大きな組織では、サイトについて判断する関係者が一人ではありません。経営者は先進的な印象を求め、別の部門は堅実な印象を重視するなど、同じ言葉でも思い描くものが異なります。イメージだけを基準にすると、意見を合わせるのが難しい場面があります。
「コンペでは、イメージだけでなく、数字やロジックできちんと説明してくれる点が違っていて面白い、と言っていただくことがあります。こういうレポートが出ているので、こうした方がよいのではないかと説明できると、関係者の皆さんが共通の感覚で見られる部分があります」(小島氏)
もちろん、時間をかけて調査したり、SEO の専門家と協力したりすれば、以前からこうした提案は可能でした。しかし、コンペには期限があり、毎回十分な調査時間を確保できるとは限りません。
Ahrefs と Claude を組み合わせたことで、小島氏は調査をより速く、ほかの作業と並行して進められるようになったと感じています。その結果、特に時間をかけられる案件だけでなく、より幅広い顧客に検索データを踏まえた提案を届けやすくなりました。同社にとっての変化は、単に資料を作る効率が上がったことだけでなく、通常の制作提案に含められる内容が増えたことにあります。
小島氏は、AI によって Web 制作の工程そのものも変わりつつあると捉えています。以前は AI が作ったと分かる品質の差があったものの、最近は、その差が小さくなっていると感じているそうです。
今後、サイトを作る工程がさらに短くなれば、制作会社に求められる役割も変わります。小島氏が重視しているのは、作ったものを顧客がどう使いこなし、運用していくかを支えることです。SEO や AI 検索への対応も、その一部として位置づけています。
同時に、大規模なサイトでは、ページを生成するだけでは対応できない課題が残ります。多くの情報を扱う企業ほど、その情報に関わる担当者や部門も多く、公開までの確認工程が複雑になるためです。
例えば、食品に関するサイトでは、価格や原材料に加え、アレルギー情報など、誤りが利用者の安全に関わる情報を扱う場合があります。公開前に複数の部門が確認するなど、正確な情報を届けるための仕組みが欠かせません。
誰が確認し、どの順番で承認し、どの状態になったら公開するのか。こうした運用を考え、管理画面や CMS に反映する仕事には、顧客の業務を理解した設計が必要です。
「どうやって運用するかを考えるところに、私たちのような存在が関わっていくのだと思います。こうしたらうまくいくのではないか、こうしたらよりスムーズに情報発信できるのではないかと、一種のコンサルティングのようなことをしていくのかなと考えています」(小島氏)
検索データを使った提案と、情報を正確に更新できる運用設計。その両方を扱うことで、同社は制作の前後も含めた支援を広げようとしています。
図 3:サイト制作に加え、SEO・AI 検索への対応や情報更新の業務フローを支援する。取材で語られた取り組みと今後の方向性をまとめた概念図。
今後の Web や AI の役割を考える際、小島氏は、個人で営むおいしいラーメン店を例に挙げました。店主は日々の営業に追われ、宣伝広告に十分な費用や時間をかけられない。それでも、その店を知りたい人はいるはずだといいます。
Web サイトに加えて、X や Instagram など、情報発信の選択肢は増えました。一方で、事業者が対応しなければならない仕事も増えています。こうした負担を、技術によって減らせないかと考えています。
「毎日ラーメン作りを頑張っていれば、それが自然と世の中に届く。理想はそうなっていったらいいなと思っています。人と情報を結びつけるところに、Web サイトや AI が貢献できたらいいのではないでしょうか」(小島氏)
情報を持つ側と、それを必要とする側が、より効率よく出会えるようにする。そのために、Web 制作やデータ分析、AI の活用をどのように組み合わせるか。同社は、日々の顧客への提案を通じて、その可能性を探っています。
今回の取材では、AI による分析が完全ではないことを踏まえながら、実際の提案で役立つ部分を取り入れている姿勢が印象に残りました。ツールを使いこなしてから業務を変えるのではなく、日々の商談で試し、役立った方法を次の提案やチームの育成につなげていく。ちょっと株式会社の取り組みは、制作の専門性を持つ企業が SEO 分析を実務に取り入れる際の、参考になる進め方です。
ちょっと株式会社(chot Inc.)
事業内容:Web サイト制作・システム開発
公式サイト:https://chot-inc.com/
小島 芳樹氏|ちょっと株式会社 代表取締役社長
2018 年に個人事業主として独立し、その後法人化。経営に加え、Ahrefs と AI を組み合わせた調査や顧客への提案に取り組んでいます。
Ahrefs(エイチレフス)は、検索キーワードや競合サイトの調査、被リンク分析などに活用できるマーケティングツールです。Web サイト制作やリニューアルの検討段階でも、検索データを通じて課題や機会を把握するために利用できます。
公式サイト:https://ahrefs.com/ja/
※本記事の内容は、2026 年 10 月 1 日の取材時点のものです。

Ahrefs 日本マーケティング統括。
国外 SaaS 企業における日本市場向けのマーケティングとローカリゼーションで 10 年以上の経験を積み、現在は Ahrefs の日本マーケティングを統括。ユーザーの皆さんと共に、Ahrefs を日本で盛り上げることを目標に、日々全力で取り組んでいます。