SEO 全般

他のマーケティング領域で生み出した需要を逃さないための SEO 活用法

デスピナ・ ガヴォヤニス
Ahrefs | シニア SEO スペシャリスト。 8 年以上にわたり BtoB、E コマース、SaaS の各分野で活躍し、国民的メーカー・ブランドの業務成長に携わった経験も持つシニア SEO コンサルタント。実は楽観主義者で、困難に直面してもポジティブな側面に目を向けることを忘れずに、日々を楽しんで過ごしている。
「需要創出」とはつまり、ある商品やサービスのマーケティング広告を目にするまでは特に買うつもりがなかったものを人々に「欲しい」と思わせることです。

これは EC サイトが新製品発売前に話題性のあるキャンペーンを打ち出すなど、短いスパンで仕掛ける戦術であることもあれば、B2B マーケティングのように、小売市場の外に存在する顧客を引き付けて離さないための長期的な取り組みとなる場合もあります。

どちらの場合にしても、需要創出はかなり予算のかかるマーケティング活動となります。

ここでは、生み出した需要(潜在顧客)を SEO の手法でうまく捕まえて逃さないようにすることで、同じマーケティング予算でより良い効果を上げるための方法をいくつかご紹介します。

需要の生み出し方に間違いも正解もありません。あるものを購入したいという(以前には無かった)欲求を作り出すためのマーケティング活動はすべて、需要創出と言えるでしょう。

その一般的な方法としては、次のようなものがあります。

  • 有料広告
  • 口コミ
  • ソーシャルメディア
  • 動画マーケティング
  • メールマガジン
  • コンテンツマーケティング
  • コミュニティマーケティング

分かりやすい例でご説明しましょう。Pryshan はオーストラリア発の小規模ブランドで、これまでになかったタイプの角質除去用のスクラブストーンを粘土から作ることに成功し、2018 年から実店舗で販売しています。

この製品は画期的な発明とは言えないかも知れませんが、これまでに同様の製品が市場に出たことはありませんでした。同製品のオンライン発売開始にあたり、同社チームは今年、Facebook 上に大量の広告を掲載し始めました。 

Pryshan の Meta 広告の例

広告の掲載により、この会社は製品への需要を生み出すための初期段階に入ったと言えます。爆発的な話題性を持ったタイプの広告ではありませんが、需要創出の優れた取り組み例であることに変わりはありません。

検索ボリュームのデータを見ると、オーストラリア国内では「粘土から作られた角質除去スクラブストーン」というキーワードで 1 か月に平均 40 件の検索があり、同製品に関連した他の検索も何件か見られました。

「粘土石の角質除去スクラブ」および同様のキーワードを対象とした Ahrefs のキーワード指標は、合計すると月あたり 100 件を超える検索があると示している。

しかし、これらのキーワードはアメリカではほとんど検索されていません。

アメリカにおける「粘土石の角質除去スクラブ」関連のキーワード検索ボリュームはどれも 0 ~ 10。

これは非常に珍しいケースです。 

というのも、オーストラリアの人口はアメリカよりはるかに少なく、オーストラリア国内で表示されるローカライズ検索結果を除いて、同じキーワードのオーストラリア国内の検索ボリュームは通常、アメリカの約 6 ~ 10% にとどまります。 

例として、この 2 つの国で最もよくされている検索のボリュームを比較してみました。 

Youtube、Facebook、Wordle、Gmail、Google といったキーワードのアメリカとオーストラリアでの検索ボリュームを並べて比較

さて、さまざまなソーシャルメディア上での Pryshan の広告活動は、角質除去スクラブストーンに対する検索需要​​の増加に直接的に結びついています。

製品情報がどこからどのように人々に伝わるかは重要ではありません。大切なのは、オーディエンスの商品に対する見方を、ただ情報として認知している状態から、感情的な購入欲求を持った状態へと変化させることです。

感情は行動を引き起こします。そして今の時代、人々が素敵だと思うものを新たに発見したとき最初にとる行動は通常、Google で検索することです。 

もしまだマーケティング活動に SEO を取り入れていない場合は、次にご紹介する 3 つの方法で、以下のことが可能になると覚えておいてください。

  • 予算の無駄を最小限に抑える
  • 人々が商品・サービスを検索する時に彼らの関心をとらえて離さない
  • すでにリーチしているオーディエンスをコンバージョンへと導く

需要創出への取り組みの一環として、ネットユーザーが Google 検索したときに製品を簡単に発見できるよう、以下の点に留意してください。

  • 製品に覚えやすくシンプルな名前を付ける
  • 多くのユーザーが検索するだろうキーワードを製品名、製品説明、宣伝文句に含める
  • 既存の別製品と間違われてしまうような紛らわしい単語の使用は避ける

たとえば、「粘土から作られた角質ケアストーン」というコンセプトはとても覚えやすいものです。

このコンセプトのおかげで、もしネットユーザーがこの製品の正確な名前を忘れてしまっても、それが皮膚の角質除去に使われている様子を紹介した動画や画像はきっと記憶に残るでしょう。そして、その製品が軽石のような一般的な素材ではなく、粘土から作られていることも覚えていてくれるはずです。

Pryshan が、多くの人々が検索するキーワードそのものの様なシンプルな名前を自社製品につけたのは、とても理にかなっています。

ただし 1 点強調しておきたいのは、このケースでは「角質除去」という部分が重要だったことです。

Pryshan がもし自社製品を「粘土の石」と呼んでいたら、検索結果で「ガーデニング用の土製品」の中に埋もれてしまっていたでしょう。実際、このキーワードで検索すると、同製品はその他多数のガーデニング商品に混ざって検索結果に表示されてしまっています。

Google で「粘土石」というキーワードで検索すると、Pryshan ショップのリスティングは園芸用品の間に表示される。

この例から分かるように、新発売の製品やサービスを何と呼ぶか​​を決めるブランディングの過程では、Google で名称の候補を検索してみると良い参考になるでしょう。 

こうすることで、自社の製品が種類のまったく違う他製品と同じカテゴリーに分類されないためにも、どんな表現を避けるべきかがはっきりと見えてくるからです。

いきなりですが、自分が働く企業がリブランディングに多額の資金を投資したばかりだと想像してみてください。ロゴをはじめ、企業理念、マーケティング資料を刷新し… とにかくすべてががらりと変わりました。

名刺デザインの担当チームは、新しい名刺の裏に「私たちの新たな企業理念をぜひ Google 検索してください」とお願いする一文を載せたら良いのではと考えました。

ただし問題は、新たに掲げた企業理念のキーワード検索でこの会社が上位に表示されていなかったことです。

このため、名刺の裏を見た人がそのフレーズを検索しても、その会社のウェブサイトはまったく出てこなかったんです!(ブランド名は言えませんが、実話です。)

こういった手法は特に目新しいものではありません。多くの企業が、人々は興味を持ったものについてまず Google で検索するという行動パターンをうまく利用し、紙媒体やラジオ・テレビでの放送広告を目に(耳に)した人たちを自社ウェブサイトへ誘導することでオンライン媒体のオーディエンスを増やしています。

「近くのチーズステーキ」の Google 検索画面を含んだ看板。

とはいえ、検索結果上位にランクインするページがウェブサイト上にまだない場合は、このやり方はお勧めしません。

これは(新しい名刺の作成費用が無駄になってしまったように)コストが高くつく過ちであるだけでなく、苦労してつかみかけたコンバージョンの機会を競合他社に直接譲ってしまうことにもなりかねません。

そうではなく、SEO を活用し、ネットユーザーが自社のブランド、製品、あるいはコンテンツを検索したときに表示される唯一の存在となることを目指しましょう。

需要を捕えることができる SERP 結果

これがどういうことか、Pryshan の例でご説明しましょう。 

この会社は粘土から作った角質除去スクラブストーンを開発した初のブランドです。同社に興味を持ったネットユーザーは、Google 検索でこの製品を見つけるために新しいキーワードをいくつか編み出したようです。最もよく使われた表現は「粘土石の角質除去スクラブ」でした。

しかし、この製品は市場で唯一のオリジナル製品であるにもかかわらず、競合他社や小売業者がすでにこのキーワードの SERP に攻め入ってきています。 

キーワード「粘土石の角質除去スクラブ」の検索結果と Pryshan の表示位置。

Pryshan の公式ページ 4 件がオーガニック検索上位10位にランクインしてはいるものの、これは満足できる結果とは言えません。

さらに、Pryshan のウェブサイトがユーザーの目に入る前に、競合他社製品の有料カルーセル広告が表示されてしまっています。

Google 上の商品のリスティング広告。

同社は既に Face­book の有料広告を出しているようですが、有料の Google プレースメント広告を利用することも検討してみて良いように思います。 

というのは、ご覧の通り、オーガニック検索上位 10 位のうち小売店と競合他社のページが 3 件もランクインしているからです。 

小売店が検索結果上位にいる状態はなんてことはないように思えるかもしれませんが、油断していると製品価格を自社ページの価格より下げられたり、彼らによって自社ページが SERP のランク上位から完全に押し出されてしまったりする可能性があります。 

これは、アフィリエイト広告業者が SEO に明るくないブランドから手数料を稼ぐためによく使う手でもあります。 

以上をまとめると、SEO は Google 上でのブランド・製品の存在感を高水準にキープするのに大変有効な手法だということです。

これまでに誰も見たことがない革新的な製品・サービスに対する需要の創出に全力を注いでいても、その成功度合いを測るのは難しいかもしれません。

売上を計算することは当然可能ですが、多くの場合で需要創出の努力はただちに売上にはつながりません。

たとえば、B2Bマーケティングがその顕著な例です。市場外のオーディエンスに情報を売り込み潜在顧客に変化させるまでには長い時間がかかることもあります。

そういった場合にこそ SEO データを活用することで、企業とオーディエンス間にある情報のギャップを解消し、顧客の自社製品に対しての購買意欲を高めるための戦略策定が可能となります。

ブランド検索(指名検索)の増加を測定

正しい対策がとれていれば、需要創出の取り組みにともなって自社ブランドの検索ボリュームは自然と増加傾向をたどります。

そこで、ブランド名の入ったキーワードの増加量や増加のスピードが、マーケティング戦略の成功度合いの目安となってきます。

Ahrefs のランクトラッカーを使えば、ブランド検索(指名検索)からウェブサイトを見つけたユーザーの数と、それが上昇傾向にあるかどうかを継続的にチェックできます。

Ahrefs のランクトラッカーダッシュボードの例。

自社ブランドの知名度が十分にあり、月に数百件の検索がある場合は、キーワードエクスプローラーを使ってこういった分かりやすいグラフで検索量の今後の動向予測を見ることもできます。

月ごとの検索ボリュームを示す Ahrefs のキーワード指標の例と、予測される増加を示したグラフ。

新製品の宣伝文句の検索パフォーマンスをチェックするとともに、その検索によく使われているキーワードを特定

需要創出戦略の一環として、新しい製品・サービス・技術の宣伝フレーズをそのまま検索するようオーディエンスを誘導している場合は、通知(アラート)設定をすることで、それらのキーワードの検索結果内で自社製品がどのくらい存在感を示せているか(つまり、検索パフォーマンスの良し悪し)をチェックできます。

これと同時に、ネットユーザーが自社が打ち出した宣伝フレーズよりもよく製品の検索に使っているキーワードを特定することも可能になります。

Ahrefs のアラートページに移動し、新しいキーワードアラートを設定してください。

Ahrefs アラート機能の設定方法。

まず、ウェブサイトのアドレスを入力します。

ボリューム設定欄への入力は不要です(検索ボリュームの少ないキーワードも含めることで、ユーザーが検索し始めたばかりのキーワードも発見できるため)。

「通知設定」でメール通知の頻度を選べば、設定は完了です。

ウェブサイトの可視性を競合他社と比べてチェック

Google 検索結果で他のブランドに上位表示位置を奪われてしまうことに危機感を持っているなら、Ahrefs を使って他社との間でのトラフィックシェアを確認することもできます。 

サイトエクスプローラーシェア・オブ・ボイスグラフを使うと便利で、以下のように表示されます。

Ahrefs のシェア・オブ・ボイスグラフを使って、複数ウェブサイトからのトラフィックを比較。

このグラフを見れば、ウェブサイトの可視性の点で競合他社との競争状況が一目瞭然に分かります。

まとめ

SEO 担当者は時として、自社製品やサービスに対する需要の創出に日々心血を注ぐライバル企業の存在を忘れてしまいがちです。

マーケティングにおいて需要創出は常に最優先事項であり、そこから生まれた潜在顧客を捕まえて離さないのが私たち SEO 担当に求められている役割です。 

「鶏か卵、どちらが先に存在していたか」について悩んでも答えが出ないのと同じように、SEO 以外のマーケティングと SEO のどちらが先行して行われるべきか、ということは重要な問題ではありません。賢明なマーケティング担当者とは、競合他社が取るべき戦略について悩んでいる間に SEO 施策の重要ポイントを自ら見つけ出し、そこに重点的にアプローチすることで、自社を市場内の有利なポジションへと導けるような存在なのです。

今回ご紹介した以外にも SEO と需要創出の組み合わせの優れた例をご存じの場合は、ぜひ X で Ahrefs チームと共有してください。