世界 190 ヶ国で 2 億 9 千万以上、日本国内では 400 万以上のアカウント数を誇るホームページ作成プラットフォーム「Wix」。その本社で、日本市場向けの SEO 戦略を一身に担うのが田澤 潤子様です。Wix の日本法人の立ち上げ前からマーケティングチームに在籍し、10 年以上にわたり同社の日本国内での成長を支えてきました。

今回は、私、Ahrefs 日本マーケティング統括の河原田 隆徳が、自身も以前勤めていた Wix 本社に田澤様を訪ね、日々の業務に欠かせないという Ahrefs の具体的な活用法から、AI の台頭により激変する検索市場への向き合い方まで、幅広くお話を伺いました。

ーー まず、田澤様のご経歴と、Ahrefs を使い始めたきっかけを教えてください。
「私は Wix の日本法人 が設立される以前の 2014 年に Wix に入社しました。日本市場向けの様々な業務を経て、ここ 7 年ほどは インハウスの SEO 担当者として業務に当たっています。」

「Ahrefs を使い始めたのは、Wix のマーケティングチームが SEO ツールとして導入したのがきっかけです。個人的に知っていたわけではありませんが、キーワードリサーチや競合分析のために チームで利用したのが始まりでした。社内では他にもいくつか SEO ツールを導入していますが、個人的にはその中で最も使用頻度が高く、信頼を置いているツールです。 」
海外から日本の市場を見ている田澤様にとって、Ahrefs は単なる分析ツール以上の役割を果たしています。
1. VPN いらずの現状把握とキーワードリサーチ
「キーワードエクスプローラーは、1 日に十数回は開いていると思います。海外から日本のユーザーが見ている検索結果を確認するには VPN が必要ですが、その手間を省いて自社や競合、パートナーのサイトの検索順位を素早く確認することができるので非常に重宝しています。」

日々の順位確認に加え、コンテンツ戦略の核となるキーワードリサーチでは、現在の検索ボリュームだけでなく「未来の需要」も重視していると言います。
「現時点の検索回数を把握することはもちろん重要ですが、Ahrefs の[キーワード候補]のダッシュボード上で表示される検索意図や検索ボリュームの今後のトレンドは必ず確認します。今後伸びそうなキーワード、例えば『AI 〇〇』のような需要が急増しているものは優先的に対策しますし、逆に下降トレンドであれば優先度を下げるという調整をすることがあります。この需要の伸びしろを見極める上で、Ahrefs のデータは欠かせません。」

2. 競合分析から、未来のパートナー発掘まで
「サイトエクスプローラーは、競合サイトの分析はもちろん、インフルエンサーやアフィリエイトなど協業パートナーを探す際にも強力な武器になります。候補となりそうなサイトを見つけたら、まず Ahrefs に入れて、どのキーワード、どのページでトラフィックを集めているのか 、トラフィックの増減のトレンドなどを確認します。弊社の関連キーワードやトピックで集客できているか、トラフィックが右肩上がりに伸びているかどうかという点は、協業を検討する際に重要な指標になりますね。」

3. 業務に溶け込む Chrome 拡張機能 — Ahrefs ツールバー
調査の効率をさらに高めているのが、Ahrefs の Chrome 拡張機能の「Ahrefs ツールバー」です。
「検索結果画面(SERPs)上で各サイトのDR(ドメインレーティング、または通称ドメインパワーとも呼ばれ、Ahrefs 独自のアルゴリズムでサイトの相対的な強さや信頼性を数値化している) やトラフィック数が一覧表示されるので、毎回 Ahrefs のダッシュボードにアクセスしなくても市場のパワーバランスが一目瞭然です。これは協業パートナーを探す際にも、ドメインの権威性が高いサイトをすぐに見つけられるので非常に便利です。」

AI Overviews の登場により「SEO は終わった」という声も聞かれますが、田澤様はこれを明確に否定し、「SEO の役割が進化・拡張している」と語ります。
ーー AI Overviews による CTR 減少などの影響をどう見ていますか?
「日本で今年 3 月から本格化したと思われる AI Overviews の導入後、一部のブログ記事、特に情報収集目的のクエリで CTR の低下は明確なトレンドとして観測しています。しかし、すべての記事で一様に影響が出ているわけではありません。現在は『慎重な分析と経過観察』を基本方針としています。Ahrefs のようなツールで、どの分野で、どのようなコンテンツが影響を受けやすいのかを慎重にデータ分析し、質の高いデータに基づいた次の戦略を立てる準備期間と捉えています。」

ーー コンテンツ作成に AI を利用していますか?
「はい、Wix ではコンテンツ作成のプロセスにおいて AI を積極的に活用しています。AI はコンテンツ制作において、生産性を飛躍的に向上させる強力なツールであると認識しています。
具体的には、記事の構成案作成、情報のリサーチ、文章のドラフト作成 (たたき台) など、コンテンツ制作の初期段階で AI を活用し、スピードアップを図っています。ただし、AI が生成したテキストをそのまま公開することはしていません。必ず専門知識を持つ担当者やライターが介在し、下記 3 点を徹底しています。
- ファクトチェック: 情報の正確性を厳密に検証
- 表現のリライト: 読者にとってより自然で分かりやすい表現に修正
- 独自性の付与: Wix ならではの独自の知見や具体的な事例に基づいた一次情報を加筆し、コンテンツの付加価値を最大化
なお、AI を利用したコンテンツ作成は社内にとどまらず、ユーザー向けにも、AI でサイトコンテンツとデザインを生成できる AI サイトビルダーの他、キャッチコピーや商品説明文を生成できる AI テキスト機能を提供しています。
このように Wix では AI を『コンテンツを迅速に作成するためのサポートツール』と明確に位置づけて大いに活用しています。」
ーー ブランドの言及やサイテーションはどのように追跡していますか?
「ブランドの言及・サイテーションのモニタリングには、Ahrefs の新機能ブランドレーダーを活用しています。単に Wix の言及数を追跡するだけでなく、どのような文脈で、どのメディアやコミュニティで弊社が言及されているかを定点観測しています。これにより、ブランドの評判管理はもちろん、新たなコンテンツのアイデアや、私達がまだリーチできていない潜在顧客層を発見するための重要なインプットとして活用しています。LLM からの直接的なトラフィックを正確に計測することは、業界全体の大きな課題だと認識しています。この課題に対応するため、弊社では LLM からの流入と推定されるトラフィックを可視化する社内ツールの開発を進めています。」

最後に、AI 時代における SEO の未来について伺いました。
「結論から言うと、『SEO is Dead』では全くなく、『SEO の役割が進化・拡張している』と言えると思います。ユーザーが情報を得る場所は、伝統的な検索エンジンから、生成 AI が回答を差し出す『アンサーエンジン』へと広がりつつあります。この新しい環境に適応する 『GEO (Generative Engine Optimization)』 と呼ばれる領域において、私達が培ってきた SEO の基礎知識は、むしろその重要性を増していくはずです。」
AI が信頼できる回答を生成するには、E‑E-A‑T を満たした質の高い情報源が不可欠。さらに AI 検索エンジンにより正確に情報を読み込ませるためにはテクニカル SEO も欠かせず、これはまさに SEO 担当者が培ってきた専門分野と言えます。
「この大きな変化の中で、SEO 担当者の役割は、単なる『オーガニックトラフィックの担当者』から、『ユーザーインテントを最もよく理解し、マーケティング戦略全体をリードできる存在』へと変わっていくと確信しています。AI は、デジタルマーケティングの在り方そのものを大きく変えつつありますが、その中心には常に「ユーザーが何を求めているのか」という問いがあります。この問いにデータを持って答えられる SEO 担当者は、コンテンツ戦略、PR 戦略、プロダクト開発にまで影響を与えられる、極めて重要なポジションになる可能性を秘めていると思います。これまでの枠に留まらず、この変革期をリードすることで、SEO 担当者の価値はますます高まっていくのではないでしょうか。」

少数精鋭で大きな成果を求められる Wix の SEO チーム。その日本向け戦略の中心には、常にユーザー意図を見据える田澤様の視点と、それを支える Ahrefs の揺るぎないデータがありました。
企業情報
- 企業名:Wix.com Ltd. (ウィックス・ドットコム)
- ウェブサイト:https://ja.wix.com/
- 設立:2006年
- 上場市場:米NASDAQ
- 事業内容:中小規模ビジネスの成長を支援する、AI搭載のWebサイト作成・運営プラットフォーム。柔軟なCMS機能や、ホスティング、ドメイン取得・管理もオールインワンで完結させる包括的なソリューションを開発・提供。
インタビュー対象者:SEOマネージャー 田澤 潤子様