ブランドモニタリングとは多くの場合、単にブランドに言及したコメントに返答するだけの作業ではありません。顧客の心情を理解し、顧客からのフィードバックを利用してブランドに対する評価をこちらが意図するようにリアルタイムで形作っていくことを目的としたプロセスです。
好むと好まざるとにかかわらず、ネット上で皆さんのブランドについての書き込みや意見交換は絶えず行われています。肯定的なものもあれば、否定的な意見もあるでしょう。ブランドモニタリングは、こうした書き込みを見つけて対処する最も効果的な手法です。
ブランドモニタリングとはつまり、自社に関する書き込みを特定し、それに対応する作業のことです。たとえば、肯定的なコメントに補足し、ポジティブな印象を増幅させることができます。また、否定的な口コミがあった場合、それに火が付き、世間の注目を集めるまで発展してブランドの評判を落としてしまう前に対処すれば悪影響は最小限に抑えられるでしょう。
自社ブランドに関するコメントにどのように対応するかが、ブランドストーリーがポジティブなものになるか、あるいはネガティブな印象に変わってしまうかの分かれ目となるため、これは重要なタスクです。
ブランドモニタリングに必要なツールは、オンライン上のどの領域で口コミを調査したいかによって変わってきます。
こういった調査はソーシャルメディアだけで行われると思われがちですが、、筆者はウェブサイト、ソーシャルメディア、LLM・大規模言語モデルの 3 つの領域で行われるべきだと考えています。

したがって、ブランドに対するユーザーの意見を効果的にモニタリングしたい場合は、これら 3 つの領域で調査をしてください。
方法は次のとおりです。
ソーシャルメディアは、顧客がブランドに対するフィードバックをリアルタイムで一番最初に投稿する場所であるため、「ブランドモニタリング」と聞いて SNS を連想するマーケターの方が多いかもしれません。
まずは、皆さんのブランドに関する意見交換が最もよく行われているプラットフォームにどんなものがあるかを考えてみてください。
顧客が使うソーシャルメディアプラットフォームの特定
自社の顧客は LinkedIn、X、Facebook、TikTok、またはその他のソーシャルメディアを使っていますか?彼らが好んで利用するプラットホームがどれかにかかわらず、まずはそれらを継続的に調査するためのツールを見つける必要があります。
そこで、有料の SNS ブランドモニタリングツールで最も人気のものと、それらが調査対象とするプラットフォームを以下の表にまとめました。
Facebook | Instagram | X | Threads | TikTok | YouTube | Pinterest | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Brandwatch | ✔️ | ✔️ | ✔️ | ✔️ | ❌ | ✔️ | ✔️ | ❌ |
Sproutsocial | ✔️ | ✔️ | ✔️ | ✔️ | ✔️ | ❌ | ✔️ | ✔️ |
Mention | ✔️ | ✔️ | ✔️ | ✔️ | ❌ | ✔️ | ✔️ | ❌ |
有料ツールを使わず、無料で調査することもできます。たとえば Ahrefs では、Slack※の提供する Webhook 機能 を使って「X」(旧称 Twitter)を継続的にチェックしています。
※ 米国発のビジネス向けチャットツール。
具体的には、Slack のワークスペース内で「ahrefs」という単語を含んだ投稿のフィードを確認できます。このような感じです。

手動で1件ずつ投稿をチェックする必要はありますが、ワークスペース内でブランドの言及を追跡調査したい時には便利です。
調査するプラットフォームを決定し、使用する調査ツールを決めた後は、コメントの意図の分析へと進めていきます。これは「センチメント分析」と呼ばれます。
人々がブランドに対して持つセンチメント(感情)の理解
センチメント分析は、投稿を肯定的、否定的、または中立的なコメントに分類するプロセスです。これにより顧客がブランドについてどう思っているかを明確に把握できるため、ソーシャルメディアを対象としたブランドモニタリングにおいて重要な作業です。

- 肯定的なコメント:顧客が製品のどこを気に入っているかを示し、さらなる改善のヒントを得られる
- 否定的なコメント:顧客が製品のどこが気に入らないか、どこに不満を感じているかをを示し、自社がどの部分で問題を抱えているのかを明らかにする
- 中立的なコメント:肯定的あるいは否定的な感情が特に強く感じられないもの
多くの企業にとって、効果的な対応の鍵は、ネガティブなレビュー、つまり顧客が抱く否定的な感情を問題が拡大する前に発見し、適切な対応策(サービス改善、謝罪、クーポンの提供など)を迅速に決定することです。
前述の有料ツールにはセンチメント分析機能が初めから搭載されているため、否定的なコメントを簡単に特定できます。
たとえば Brandwatch というツールを使うと、否定的な内容のレビューにフラグが立ち、以下のように表示されます。

肯定的な内容のレビューの場合も、以下のような分かりやすいマークが表示されます。

Sprout Social というツールには、自社が発信するソーシャルメディアの投稿に対する人々の反応を把握できるセンチメント分析機能もあります。

アワリオも優れたセンチメント分析機能を備えたツールです。分かりやすい仕様のダッシュボード上に顧客のセンチメントをグラフ化して表示してくれます。

Mention は、さまざまなウェブサイトや掲示板のブランドモニタリングを可能にする、コストパフォーマンスに優れたツールです(個人的に最もおすすめです)。TikTok から Pinterest まで幅広いソーシャルメディアをカバーし、さらには米国のラジオやテレビにも対応しています。

ソーシャルメディアを対象にした顧客のセンチメント調査のための有料ツールは多数ありますが、利用料金は安くありません。
こういったツールを利用するよりもコストパフォーマンスに優れた方法を探していて、作業にある程度の時間と労力を割ける場合は、TEXT2DATA の Google Sheets 対応アドオンなどを利用する手があります。このアドオンでは、API の呼び出し 5,000 回分が約 17 ドルで利用可能です。
興味がある方は、このアドオンの機能を確認できるデモをご覧ください。また、架空のレビューを使った 30 秒の分類テストの結果は、以下の表のようになっています。

特定の投稿へのコメントを分析したい場合は、このアドオンを使ってセンチメントを分析し、Panda Extract などのツールでソーシャルメディアの投稿フィードからデータを収集できます。
世界中で少なくとも 18 億 8,000 万のウェブサイトが存在する中、このうちのいくつかで自社ブランドが言及されている可能性は十分にあります。では、ブランドへの言及を最も効果的に見つけるにはどうすれば良いのでしょうか?筆者は以下の方法を提案します。
Google の活用
ブランドがどのような種類のウェブサイトで言及されているか探し出す最も速い方法は、ブランド名の Google 検索です。
Google の検索結果には、幅広い種類のウェブサイトが SERP 機能として表示されるため、どのサイトを対象にしてブランドモニタリング戦略を展開していけばいいかが一目瞭然です。

たとえば、英国のブロードバンド会社である「Virgin Media」を Google で検索すると、複数のニュースサイトでブランド名が言及されていることがわかります。
このことから、ニュースサイトでのブランド言及がこの企業のオンラインでの評判に影響を与える可能性が高いことがわかり、モニタリングすべきサイトの種類を絞り込む手がかりとなります。

では、このような言及を継続的に探し出して把握しておくには、どうすれば良いのでしょうか?それには「アラート機能」を使うことができます。
アラート機能の設定方法
筆者の経験上、Ahrefs のアラート機能を利用すれば、ほとんど労力をかけずにウェブ上でのブランド言及を自動的に監視することができます。
Ahrefs を使ってブランド言及アラートを受け取るには、以下の手順で設定してください。
- Ahrefs の「More」メニューをクリック
- メニューのドロップダウンから「Alerts」を選択
- 「Mentions」タブを選択
- 「+ Add alert」をクリック

その後、以下の作業を行ってください。
- 「Search query」欄にブランド名を入力
- 「Exclude domains」欄に自社サイトのドメインを追加
- 「Interval」で希望の通知頻度を設定

ここでは「Daily」(毎日)を選択しましたが、更新頻度を下げたい場合は「Weekly」(毎週 1 回)を選ぶこともできます。
オーガニックキーワードをモニタリングする
Google でブランドを検索する際に使用されるキーワードを正確に特定し、そのモニタリングをするには、Ahrefs のブランドフィルターを活用できます。
利用方法は以下の通りです。
- キーワードエクスプローラーに移動し、検索ボックスにブランド名を入力
- 「フレーズ一致」レポートに移動し、「検索意図」から「ブランド」を選択して、「承認」をクリック

その後「親トピック別のクラスター化」を選択すれば、ブランドにとって最も重要性の高い検索キーワードを表示したチャートが見られます。

キーワードをクリックすると、そのトピックに関する Google 検索結果を直接確認できます。 たとえば「Virgin Media 利用停止」というキーワードをクリックするとします。

キーワードをクリックすると、「SERP 概要」セクションでそのキーワードの Google 検索結果の上位ページが表示されます。
ここでわかることは次の 2 点です。
①このキーワードは、主に Virgin Media のコミュニティサイトのサブドメインで言及されている。
② Reddit (米国発の掲示板型 SNS)のスレッドが 1 件上位に入っている。これが同社の評判を下げてしまう可能性もあるため、チェックするべきである。

次は、Google アラートを使った調査例で、Reddit での Ahrefs のブランドモニタリングを実施した方法をご紹介します。 アラートを受け取る対象ページとして「site:reddit.com [スペース] ブランド名」と入力して設定するだけです。

もしブランド(会社)として Reddit アカウントを持っており、ブランド名がそのままユーザー名に入っている場合は、Reddit のユーザー設定から「Username mentions」(ユーザー名への言及を通知)を選択することもできます。

競合他社の有料広告に自社ブランド名が使われていないかをモニタリング
ここまでオーガニック検索を対象にしたモニタリングについてご紹介してきましたが、他社のウェブサイトが自社のブランド名を含むキーワードをターゲットにした広告を掲載している場合はどうすれば良いのでしょうか?
Ahrefs を使って、競合の Google 広告で自社のブランド名が使われているか、また、どんな広告コピーが使われているのかを確認することができます。
これには、サイトエクスプローラーで競合のドメインを入力後、「有料キーワード」レポートに移動し、「キーワード」フィルターに自社ブランド名を入れてください。

次に広告の詳細情報を確認するため、広告のドロップダウンアイコンをクリックして「広告順位履歴」を表示します。色の付いたブロックの上にカーソルを合わせると、広告の詳細を見ることができます。

競合の広告で自社ブランドの言及を監視することで、どの競合が自社ブランド名を含んだ有料広告に最も費用をかけているかが把握でき、彼らがどんなキーワードに価値があると捉えているかも読み取れます。
競合が自社のブランド名やブランド関連キーワードに入札し、トラフィックの一部が奪い取られている可能性は常にあるため、これは定期的にチェックすることが重要です。
たとえば、米国の起業家であるピーター・シャンクマンさんは最近、競合である Qwoted(米国発のメディアと企業や専門家を結ぶプラットフォーム)が自社のブランド名「Source of Sources」をキーワーに使った有料広告を出していることに気づきました。

サイトエクスプローラーに「qwoted.com」と入力し「広告」レポートに移動すると、Qwoted は「Source of Sources」だけでなく、他のブランド名にも入札していることが分かりました。「〇〇(他社ブランド)に代わるプラットフォーム」が宣伝文句の有料広告が何件も見られたため、これらのブランドにも影響を与える可能性があります。

自社ブランドに関連したキーワードが 1 つ使われているくらいでは大きなダメージはないかもしれませんが、競合他社がいくつもの関連キーワードに対して入札している場合は、自社ビジネスに影響が出てくる可能性があります。だからこそ、自社ブランド名を含む広告のモニタリング戦略を立てることをおすすめします。
LLM(大規模言語モデル)では、いつどこでブランドについての言及がされるか分からないため、これに対応することがブランドモニタリングにとって新たな課題となっています。
GPT-4o、Claude、Grok‑1、Gemini など、今やよく知られた LLM が多数存在しています。
さらに複雑なのは、ブランドへの言及頻度や内容は LLM ごとに異なる点です。では、これらすべてを効率よくモニタリングするにはどうすれば良いのでしょうか?現時点での答えは「それは簡単ではない」です。
しかしこの状況も、Ahrefs が新しいツール「LLM Chatbot Explorer」をリリースすれば大きく変わるでしょう。このツールは、主要な LLM の回答内での自社ブランドの表示頻度を分析し、関連データを提供します。

このツールのリリースを待つ間にも、LLM で自社ブランドがどのように紹介・説明されているかをチェックする方法が 2 つあります。
- LLM に自社ブランドについて質問する
- LLM のオートコンプリートを分析する
それぞれを簡単に見ていきましょう。
LLM に自社ブランドについて質問
Perplexity に Ahrefs について知っているか尋ねたところ、こんな回答がありました。

この回答でも悪くはありませんが、興味深いことに、回答の情報源の 1 つは競合他社となっており、これは理想的ではありません。また、ChatGPT で同じ質問を再度実行すると、情報がこれよりも少なく、より単純な内容の回答が得られたのみでした。

どちらの回答も、Ahrefs にとって素晴らしい内容だとは言えません。では、自社ブランドが LLM でどのように表現されるかを改善するにはどうすれば良いのでしょうか?その答えは「LLM 最適化」です。私の同僚、ルイーズ・リネハンがこのトピックに関する素晴らしい記事を書いていますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
LLM のオートコンプリートを分析
LLM にブランド名を入力してみると、通常は Google と同様に検索の下にオートコンプリートの提案が表示されます。
以下は、Perplexity で「Ahrefs」と入力した際の例です。

この場合、特に驚くような候補は表示されません。「Ahrefs」とセットで表示される単語は、被リンクチェッカーや SEO 拡張機能など、 Ahrefs ツールの無料版に関するものがあります。
興味深いことに、上記のオートコンプリート候補の 1 つはフランス語であり、これは Ahrefs のグローバルマーケティングチームにとって有益な情報かも知れません。
では、ブランドモニタリングにはどんな未来が待っているのでしょうか?以下の 3 つの重要な進展が見られると考えます。
- LLM の重要性の増大
- より高度なセンチメント分析の出現
- Reddit などのオンライン掲示板を対象にした調査の増加
LLM でのブランドモニタリングの重要性の増大
現在、ブランドモニタリングの対象領域はソーシャルメディアに集中していますが、LLM の影響力が強まるにつれ、ウェブサイトやソーシャルメディアだけでなく、LLM 上でのブランドモニタリングを重要視する流れに変わっていくでしょう。
Ahrefs の場合、すでに ChatGPT から絶えずリード(見込み顧客)を獲得しており、LLM の重要性を十分認識しているため、LLM 上でのブランドモニタリングが近い将来より重要になってくるというのはそれほど驚くようなことではありません。

より高度なセンチメント分析の出現
現時点では、センチメント分析は一般に「肯定的」「否定的」「中立的」の 3 カテゴリーに分類されます。
これは基本的な分析としてある程度は役に立ちますが、それぞれの背後にある、より微妙な感情や心情については情報がありません。将来的には、感情をより細かく分類できるような高度なセンチメント分析の需要が増し、一般的になっていくでしょう。
Reddit などのオンライン掲示板を対象にした調査の増加
Reddit などの特定の掲示板上でのブランドモニタリングは、今後さらに増えていくでしょう。
その主な理由は、ほんの数年前に比べて Reddit のページが Google の検索結果内でより目立つようになったためです。 Ahrefs のサイトエクスプローラーで「reddit.com」を検索すれば、その変化を確認できます。

過去 1 年間で Google から Reddit へのオーガニックトラフィックが約 1000% (!)増加していることから見ても、ブランドにとってこの SNS の重要性は今後も高まり続けるでしょう。この動きを受け、一部の SEO 担当者は Google をからかって以下のようなジョークを飛ばしました。
▼「Fixing Google Search(あれ、Google 何かおかしくない?)」と書かれたカール・ヘンディさんの投稿。Google のトップページにまつわる面白画像を投稿するもので、このシリーズ投稿はその後も継続中。

まとめ
ブランドモニタリングと聞くと、ソーシャルメディアに焦点を絞って調査するという従来のイメージがまだ強いかもしれません。しかし筆者の意見では、ウェブサイト、ソーシャルメディア、そして現在では LLM までを広く対象にした手法へと変わってきています。
自社ブランドはネット上のあらゆる場所で言及される可能性があります。ブランドに関するすべてのコメントや意見を調査したいなら、ソーシャルメディア以外にもリサーチ対象を広げていくべきでしょう。
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